IT企業に入社を希望する学生にITエンジニアとしての適性があるかどうかをチェックするとしたら、どのような面接問題を出題すればよいでしょう。私は、面接担当者をした経験がありますが、誠実さや社交性のチェックだけに終始してしまい、業務に対する適性のチェックが欠けていたと反省しています。もしも、今後また面接をする機会があるなら、こんな面接問題を出題してみようと思います。

絵を描いてください

 ITエンジニアには、頭の中にあるイメージを図示できる能力が必要です。フリーハンドの雑な絵でも構わないので、時間をかけずに描ければ適性があるでしょう。入社を希望する学生がIT系の教育を受けているなら、「パソコンの内部構造」「アプリケーション、OS、ハードウエアの関係」などをテーマに絵を描いてもらいます。IT系の教育を受けていないなら、「自宅から最寄りの駅までの地図」「大学の構内の建物の配置」などをテーマにします。

プログラムを書いてください

 プログラミングの学習経験がある学生なら、自分の得意なプログラミング言語を使って、手書きでプログラムを書いてもらいます。テーマは「配列a[0]~a[99]に格納された値を昇順にバブルソートする」「整数nの階乗を求める」くらいのシンプルなものがよいでしょう。もしも、ただ授業で習っただけであり、プログラミングに興味がないなら書けないでしょう。プログラミングが好きなら、つまりプログラマとして適性があるなら、きっと書けるはずです。

メーカーの名前を3つ以上言ってください

 単に技術に興味があるだけでは、ITエンジニアとして採用するのは不安です。IT業界のプロになる意識があるかどうかをチェックしたいと思います。そのためには、パソコンのメーカー名、もしくはソフトウエアのメーカー名を3つ以上言ってもらい、それぞれの主力商品を挙げてもらうという面接問題を出題するとよいでしょう。メーカー名や商品名から、その人が、どのような分野に興味があるかもわかります。

鶴亀算の解法をアレンジしてください

 ITエンジニアの業務は、与えられた問題を解決する手段を見出すことです。そのために、様々な前例やサンプルを調べ、それを自分の問題に合うようにアレンジすることがよくあります。あれこれ調べて解法がわかったら、それを応用する能力が必要です。そこで、こんな面接問題は、いかがでしょう。

 「鶴と亀が、あわせて8匹います。足の数の合計は、全部で26本です。鶴と亀は、それぞれ何匹いるでしょうか?」という問題を知っていますね。有名な「鶴亀算」です。鶴亀算の解き方を小学生に教えるとしたら、どうしますか。鶴がx匹、亀がy匹として連立方程式を立てるという解き方では、ダメですよ。連立方程式は、中学生で習うからです。

 実は、とっても面白い解き方があるのです。片方が亀であることがポイントです。亀は、手足を甲羅の中に引っ込めることができますね。そこで、亀に前足2本だけを甲羅の中に引っ込めてもらいます。これによって、鶴も亀も2本足の動物になりました。鶴と亀あわせて8匹いるのですから、2本×8匹=16本が足の合計です。足は全部で26本あるのですから、26本-16本=10本は、亀の前足の合計です。亀の前足は1匹につき2本なので、10本÷2本=5匹が、亀の数です。8匹-5匹=3匹が、鶴の数です。どうです。面白い解き方でしょう。

 ここで相手が「なるほど!」と興味を持ってくれてからが本題です。鶴亀算をアレンジし、同じ方法で解ける問題を考えてもらいましょう。たとえば、「自動車と三輪車が、あわせて8台あります。車輪の数の合計は、全部で29本です。自動車と三輪車は、それぞれ何台あるでしょうか?」のような問題を作ってもらいます。この例の場合は、自動車の車輪を1つはずしてトランクにしまいます。これによって、自動車も三輪車も、車輪が3つの乗り物になりました。後の解き方は、鶴亀算と同じです。

 この面接問題は、ちょっと私の趣味に偏っているかもしれません。問題解法のアレンジ能力だけでなく、ユーモアのセンスをチェックするものでもあるからです。でも、楽しいアレンジ問題を考えてくれた新人さんなら、ぜひ採用したいと思います。楽しいことをしたいとか、人を楽しませたいと思う気持ちがあることも、ITエンジニアの重要な適性だからです。

 今回も、私の本棚から書籍を1冊紹介しましょう。「ビル・ゲイツの面接試験~富士山をどう動かしますか?」です。2003年に発刊されたやや古い本なので、既にお読みになった方も多いと思います。タイトルから想像できる通り、米国マイクロソフト社の入社面接問題と解答例を紹介した本です。マイクロソフトの生々しい採用事情がわかるという点でも、とても興味深い内容になっています。

書名:ビル・ゲイツの面接試験~富士山をどう動かしますか?
著者:ウィリアム・パウンドストーン
訳者:松浦俊輔
発行:青土社
ISBN:978-4791760466

 この連載では、皆さんからのコメントをお待ちしています。もしも、皆さんがIT企業の面接担当者だったら、ITエンジニアとして入社を希望している学生に、どのような面接問題を出題しますか。もしくは、実際に面接をした(または面接を受けた)経験がおありなら、どのような面接問題を出題しましたか(出題されましたか)? ぜひ、書き込みをお願いします。

■変更履歴
タイトル部と本文中にある「適正」を「適性」に修正しました。[2009/05/21 15:20]