ゴールデンウイーク前に、久しぶりにITがらみの国際問題とも言える騒ぎがあった。中国政府が公表したITセキュリティ製品の強制認証制度のことだ。ソフトウエア製品のソースコードの強制開示なんて話が伝わったものだから、それこそ大騒ぎになった。だが結論的には「大山鳴動して・・・」の感ありで、IT業界の観点で言えば結構トホホな話かもしれない。

 このITセキュリティ製品の強制認証制度なるものは、中国がWTOに加盟した機に策定したCCC認証の一環だそうだ。CCC認証は電気製品などの安全性を認証する工業規格で、当初はこの5月からファイヤウオールやウイルス対策ソフトなどITセキュリティ製品も対象にするという話だった。

 騒ぎになったのは、「ソースコードの開示を強制される」との観測が流れたためだ。しかも、デジタル家電も対象になるとの見方も出たほか、ソースコードの情報が中国のライバル企業に漏洩するのではという憶測もあり、騒ぎが大きくなった。日米欧の政府も「知的財産権に侵害につながる」として撤回を強く要求したとのこと。

 結局、中国は制度導入を2010年5月に先送りし、対象を政府調達品に限定したそうだ。日本や米国は全面撤回を要求しているが、まあこれで一件落着といったところだろう。それにしてもこの話、事実と憶測がごちゃ混ぜになっていて、本当のところがよく分からない。日米欧の懸念はもっともなことのように思えるが、一方的にボコボコにされた中国にも言い分はあるだろう。

 だから、この話の“真偽”には深く立ち入らない。それよりも思い出すのは、1980年代のIBM産業スパイ事件やTRONプロジェクトの挫折だ。これらも今さらくどくどと書くような話ではないが、当時、日本は米国からそれこそ一方的にボコボコにされた。あの頃は、日本のIT産業が米国に追い付けるとの希望に燃えていた時期だ。一方、米国にとっては日本のIT産業の勃興は大きな脅威だった。

 中国は今や経済大国、消費大国への道を驀進している。IT産業についても、間もなく80年代の日本のレベルに達するだろう。今回の騒動も以前なら、「共産主義国家に売り込むんだから、強制開示を要求されるのは当たり前じゃん。嫌ならビジネスしなければいい」とすましていられたが、今や巨大市場が口を開け、未来の強力なライバル企業が育ち始めている。だから黙っていられないわけで、似たような話はこれからも起きるだろう。

 ところで、非難されるほうから非難するほうに回った日本だが、果たしてIT産業は今回の強制認証制度でどれくらいの影響を受けるのだろうか。もし、当初計画の通り実施され、ソースコードの開示も要求されていたとしたら・・・あれ? 対象となる日本製品ってどれだっけ。デジタル家電が対象になったとしても、それは家電産業の話だ。

 考えてみたら、日本のIT産業には米国製品に伍して戦える製品、特にソフトウエア製品はほとんどない。だから日本のIT産業にとっては、今回の強制認証制度について大騒ぎする必要はなかったと言える。なーんだ・・・じゃなくて、本当はそれが大問題。これからIT産業の育成を強力に推進する中国は、おそらく日本と同じ轍は踏むまい。