IT部門のミドルマネジャの育成は,本人の主体的な意思に任せ,能力向上に必要な知識の習得とそれらの実務成果を確認しながら,段階的に進めることが成功の秘訣です。この具体策として,新しい「情報処理技術者試験」の利用が挙げられます。

試験勉強が実務に役立つか?

 景気の低迷する時代においては,目先のもうけ話に踊らされる傾向が強まるといわれています。このような状況下の実務では,短期的な成果が求められるあまり,本来あるべき仕事が行われないなど,視野が狭くなりがちです。例えば,結果をあせるばかり,定められた手順の一部を省いたり,形だけ手順を実行したりするといった傾向が強まります。

 一方,試験勉強はすぐに経営成果につながるわけではありません。しかし,「やるべきことは何か?」「省略してはいけないことは何か?」など,仕事の基本や「あるべき姿」を再確認する絶好の機会です。さらに,情報処理技術者試験の受験を通して,本人の技術性向(本人の得意・不得意の分野)を知ることがある程度可能になります。

 もちろん,知識だけでは成果に結びつく保証はありません。試験勉強で学んだ知識を業務で実行してみて,その成果のフィードバック(実行過程や結果を評価し,教訓や気付きを得て,次の行動方針や計画に影響を与える活動)を的確に行うことで,実務能力を向上できると考えられます。

共通キャリア・スキルフレームワークで現状のレベルを知る

 このようにただ実務だけを行うのと試験勉強とでは,それぞれ長所と短所を持っています。IT部門の将来を担うミドルマネジャを育成するには,両者の長所をうまく組み合わせることが重要です。

 下図をご覧ください。この図は,新しい情報処理技術者試験をミドルマネジャの育成に活用する場合において,「IT技術者の目標管理シート」と共通キャリア・スキルフレームワークとの関係を図示したものです。

図●新しい情報処理技術者試験を利用するミドルマネジャの育成法
図●新しい情報処理技術者試験を利用するミドルマネジャの育成法
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 まず,ミドルマネジャの育成の方向性を定める必要があります。共通キャリア・スキルフレームワークが定めるレベルに照らし合わせてミドルマネジャ各自のスキルの現状を確認してください。これを基に,将来のキャリアアップの方向性と目指すべきレベルを検討していきます。

 例えば,現在のスキルレベルが「基本的知識・スキルを有し,一定程度の難易度または要求された作業について,その一部を独力で遂行できる」という共通キャリア・スキルフレームワークのレベル2に相当するのであれば,「応用的知識・スキルを有し,要求された作業について,すべて独力で遂行できる」レベル3を目指す,というように。

 また,IT部門のミドルマネジャは,少なくとも1つ以上の専門技術(プロフェッショナル試験の対象領域)を修得することが望まれます。この専門領域のレベルは,「高度な専門知識・スキルを有し,プロフェッショナルとして業務を遂行でき,経験や実績に基づいて作業指示ができる。また,プロフェッショナルとして求められる経験を形式知化し,後進の育成に応用できる」というレベル4から,「社内をリードできる」レベル5,「国内でも認知される」レベル6,「世界的レベルで認知される」レベル7までが,共通キャリア・スキルフレームワークで定義されています。

 このように,現状のスキルレベルの評価とキャリアアップの方向性を検討する過程で,どの試験範囲の学習が必要になるのかが見えてくるのです。

ミドルマネジャとの面談でキャリアアップの目標を調整

 さらに,試験勉強の短所を補うためには,ミドルマネジャとその上司との面談により,ミドルマネジャ各自の業務目標と試験範囲の学習が大きくズレないように調整することが重要です。業務を優先するのか,試験範囲の学習を優先するのか,時間的な量と前後関係を考慮してください。調整の結果,部下のミドルマネジャとその上司が納得して共有できる,将来の方向と目標を見出すことが大切です。

 これらを上手く進めるためには,図で示したIT技術者の目標管理シートを使って行うキャリア面接が有効です。すでに目標面接が定着している企業においては,その中で行ってもよいでしょう。ただし,キャリア面接には,十分に時間を使うことが重要なことは,言うまでもありません。ミドルマネジャのキャリア面接については,部門長に任せっきりにせず,CIOも立ち会って,ミドルマネジャ本人の意思を確認することが大切です。