4月4日土曜日,東京発9時10分発ののぞみで京都に向かった。恒例の京都研究会を開催するためだ。恒例とは言っても今年は特別な年で,情報化研究会発足25周年,京都研究会は10周年という記念の研究会だった。その模様はITproで詳しく紹介された(関連記事)。立派な記事にして貰ったのは有難いのだが,筆者のキャッチフレーズである「ネットワーク人はラーメン屋からフランス料理屋へ変わるべき」というのも使われてしまったのには閉口した。このコラムで書こうと思っていたからだ。

 それはともかく,京都研究会としては過去最多の73人が参加してくれたことはとても嬉しかった。しかも,ほぼ半数は東京,名古屋,広島といった遠方から参加してくれた人たちだ。東京から日帰りで来てくれた人も多い。気持ちよく講演し,皆さんを度々笑わせて,フランス料理の話をした。懇親パーティには55人が参加。4年ぶりに京都研究会に参加してくれたSkypeの岩田カントリーマネージャーにスピーチをしてもらった。Skypeはオンラインユーザー数が1500万になっているとのこと。4年前は500万くらいだったので,ずいぶん増えたものだ。筆者の周囲でSkypeを使っている人はいないのだが,どこで増えているのだろう? ちょっと気になった。

 研究会が終わって,たくさんの方からお礼のメールをいただいた。その中でも一番印象に残ったのはNTTの若手社員であるAさんからのメールだ。

松田さま,
東西の未来は明るい,と励まされたAです.
昨日はご講演等ありがとうございました.
参加できて,非常に楽しかったです!
松田さんの情報に対する視点と,その表現が
楽しく,いくつかビジネス企画が頭に浮かんできました.
(以下,略)

 講演は楽しく聴いてもらえることが一番だが,Aさんは楽しむだけでなく自分の仕事のヒントをつかもうと真剣に聴いてくれたようだ。講演した私も役に立ててとても嬉しい。

 さて,今回はやはりフランス料理について書くことにする。ただし,京都研究会での講演はユーザーの立場ではなく,ネットワークを仕事としているプロの立場からの話だった。以下では,ユーザーの視点から「おいしいフランス料理」の選び方について述べたい。

何故,フランス料理なのか?

 ネットワークのコモディティ化が進んでいなかったとき,ユーザーは単品を扱うカレー屋でおいしいカレーを食べていれば十分メリットが得られた。例えば,広域イーサネットが出現して「高価なルーターを使わず安価なレイヤー3スイッチで,安価で高速な全国ネットワークを作る」ことが出来た。「東京ガス・ショック」でIP電話がブームになると,IP電話で設備費用や通話料を節減出来た。だが,広域イーサネットも,IP電話もあっと言う間にコモディティ化し,それだけではメリットが得られなくなった。広域イーサネットやIP電話に限らず,企業ネットワークを構成する素材はコモディティ化した。

 しかし,ここに来て素材の多様化がどんどん進展している。一つひとつの素材は技術的な新規性がなくても,素材の種類が数年前と比べて格段に増えようとしている。いわば,料理に使える食材が増えたのだ。昨年商用サービスが始まったNTTのNGNには企業向けのサービスとして,階層構造の広域イーサネット・サービスである「BusinessEther ワイド」,フレッツで全国網が構成できる「フレッツ・VPNワイド」,センター・エンド型の通信に重きを置いた「フレッツ・VPNゲート」がある。これらは利用上の制約や料金体系の特徴があり,使い方の工夫,つまり料理の仕方次第で大きな効果を発揮できる。

 KDDIが今夏からサービスする予定の「KDDI Wide Area Virtual Switch(KDDI WVS)」は次世代広域イーサネットとでも呼ぶべきサービスだが,拠点からデータセンター向けのトラフィックが契約帯域を超えてもその部分は無料,という面白い料金システムを持っている。

 NGNも,KDDIのサービスも企業ネットワークの拠点分布やトラフィックの流れ方を分析し適用の仕方を工夫することで,コストパフォーマンスの高いネットワークを実現出来る。ただし,これらの素材を一つだけ使って単品料理にしても効果は得にくい。NGN,KDDI WVS,既存の広域イーサネットやインターネットVPNなどの素材を上手に選択し組み合わせ,フルコースのフランス料理にすることで大きな効果が得られる。

 光ファイバー・ベースのサービスだけでなく,2007年3月にイー・モバイルが始めた定額料金の高速ケータイデータ通信=ワイヤレス・ブロードバンドは,ドコモ,au,ソフトバンクも追随し,企業ネットワークにとって重要な素材になった。受信状態のいい拠点なら99%以上の稼働率を出せるワイヤレス・ブロードバンドは固定通信においても用途が広がるだろう。

 眼を上位レイヤーに向けると,電話に代わってビジネス・コミュニケーションの主役になったメールも選択肢が増えた。「Microsoft Exchange」や「IBM Lotus Notes」に加えて,Googleのクラウド・サービスである「Gmail」を採用する企業も現れた。機能や信頼性においてGmailと同等以上のスペックを持つ国産のメール/グループウエアや積水化学のように自社開発したメールを外販する例も現れるなど,素材が増えると同時に利用形態もバリエーションが増えている。さらに,筆者はストレージやデータセンターも企業ネットワークの素材として見るべきだと考えている。