「プライベート・クラウド」を“導きの糸”に、今年度は保守・運用コストの削減につながるITインフラ統合を提案すべし。この前、そんなことを書いたが、これはサーバー・サイドの話。では、クライアント・サイドはどうか。これはもう惨憺たる状況を覚悟しなければならない。とすると、例の「Vista」か「7」かという“論争”は既にケリがついているわけだ。

 少し前に、今年度もIT投資に前向きなユーザー企業の人と話した。このご時勢に、IT予算を増額し、ITインフラの刷新を行うそうだ。「ITは経営のツールだから、不況だからと言ってIT投資を抑えるわけにはいかない」と、なんとも力強い発言だった。ところが、クライアント・サイドになると話は別。本来なら今年度からPCの更新する予定だったが、不要不急ということで来年度以降に先送りすることにしたという。

 確かに、償却の終わったPCを急いでリプレースすることはない。PCは一人1台(モバイルも入れれば2台)が原則だから、サーバーやストレージと違って新規投資による統合効果はゼロだ。償却が終わった直後のPCなら、償却費がゼロになるので使い続けるだけでコスト削減になる。なにも今年度に、大量更改という投資のヤマを作る必要はない。このユーザー企業だけでなく、多くの企業がそんな合理的な判断を下すだろう。

 今年度は2000年問題対策で導入したPCの2回目のリプレース期に当たるが、その需要は来年度以降に大きくずれ込むのは、ほぼ間違いない。そうなると現在、Windows XPを使い続けているユーザー企業にとって、次のOSがWindows 7になるのは時期の関係から自明のこととなる。先のユーザー企業の人も「もはやVistaは検討対象にならない」と話していた。

 マイクロソフトにとって、そんなことは先刻ご承知のはずだ。なんせ100年に一度の大不況で、全世界が同じような状況になっている。そう言えば今年になってから、マイクロソフトは「そんなことをしたらPCがますます売れなくなる」とのITベンダーの不安をよそに、Windows 7の露出を格段に高めている。企業向けではVistaの普及に見切りをつけたと見るのが順当だろう。

 もちろんWindowsが売れなくなったり、Vistaユーザーを不安にさせたりしたら、マイクロソフトにとって一大事だ。大量更改のいう大口需要は望み薄でも、PCの追加需要はどんなユーザー企業にも一定量はあるわけだから、今は余計なことを言わないでVistaユーザーにはVistaを、XPユーザーにはVistaをダウングレードしてXPを粛々と導入してもらえばよい。マイクロソフトの腹はそんなところだろう。

 一方、Windows 7の露出を高めているのは、既に言い尽くされてはいるが、クラウドコンピューティングでのグーグルとの全面対決に備えてのことだ。OSフリーを仕掛けるグーグルに対して、クラウドコンピューティング時代にもWindowsが必要不可欠で、かつ有用であることをアピールするのに躍起になっている。皮肉な見方をすれば、今回の大不況により、マイクロソフトはVistaと7の両面作戦を強いられずに済み、対グーグルに全力を傾けられるようになったとも言える。

 今年度サーバー・サイドでは仮想化によるインフラ統合が一気に進み、来年度以降の情報システムのクラウド化への道筋が見えてくるだろう。そしてクライアント・サイドでは“決戦”に向けての準備が進む。この大不況がいつ終わるのかはまだ見えないが、不況を抜けた時、ITの産業構造は大きく変わることだけは間違いない。