「売上高5兆円という壁の突破」。NECが2009年4月1日付で組織再編を実施した最大の狙いがここにある。2000年度の5兆4000億円をピークに、NECの売り上げは低迷を続けており、2008年度は4兆2000億円にまで落ち込む見込みだ。営業損益も3000億円の赤字に達する。厳しい経営状態から脱するため再編に踏み切った。

 NECはこれまで事業を9つのビジネスユニット(BU)という単位にわけ、業績もBU単位で評価してきた。その弊害として、BU長は自分のBUのことだけを考える部分最適に走る傾向が見受けられた。しかも、各BUは長期的な展望を描けず近視眼的になりがちだった。

 2006年4月に社長に就いた矢野薫氏は2007年8月に、「短期志向になり、その日暮らしの計画と実行になっているので、目線を遠くにおくことが必要」として、全体最適を実現するマネジメントに向けた改革と中長期経営計画の策定に取り組み始めた。

 矢野氏は当初、2008年早々にもその内容を公表したいとしていたが、計画はいまだ公表されていない。実は、さらに長尺の10年後の姿を描いた「NECグループビジョン2017」の策定を優先したためだ。

 NECグループビジョン2017を発表してから1年になる。問題はこの間に、矢野氏がその内容を社員に直接語り、浸透させられたかだろう。だが、この間の業績は、月を追うごとに悪化した。各部門長にとっては、いくら近視眼的と言われようとも、目前の業績悪化に目を奪われざるを得ない状況である。

 複数のNEC関係者はいくつかの問題を指摘する。「ITとネットワークの融合は思うように進んでいないし、期待したNGNの普及も遅れている」「ハード・ベンダーからソリューション・ベンダーに変身したと言うが、基本的な中身は大きく変わったように見えない」「高度成長期に、機能別の子会社(国内150社超、海外250社弱)が増え過ぎてしまい、現在では経営が成り立たなくなっている子会社が複数ある」。「会計業務一つを見ても、子会社ごとにやり方がバラバラなので、連結処理に時間がかかる。もっと組織をシンプルにし、業務プロセスを見直す必要がある」。

なぜ今になって踏み切ったのか

 矢野氏がこれらの問題を了承していないわけはない。だが、これまでは組織再編やBU長の交代をせずとも、BU間に発生した問題はBU同士の話し合いで解決できると思っていたのかも知れない。今回ようやく、組織再編に着手したのは、改善が進んでいないとの判断からだろう。メインフレームやPBXなどの大きな資産から大きな収益を得られる時代もいよいよ終わろうとしている。

 組織再編の目玉は営業だ。業種ごとのBUやネットワーク事業担当のBUに所属する営業部隊800人に、その他の国内営業部隊2500人を統合して誕生させた営業BUが、すべての製品・サービスの受注売り上げに関して責任を持つ体制にした。かつては「水先案内人」に例えられたNECの国内営業だが、その印象は今や薄れ、各BUの営業がバラバラに顧客対応する状況だった。そこで、新組織である営業BUが顧客対応を一手に引き受けて売上責任を負い、一方、製品やサービスなどのBUは損益責任に負う、という役割分担とした。

 「BU間の付け替え」という習慣もなくした。これは、あるBUが別のBUから製品・サービスを調達し顧客に販売すると、社内的にはその売上は両方のBUに立つというものだ。これにより、一部のBUでは正確な業績が見え辛くなり、決算で情報を開示する際に、相殺しなければならない数字が膨らんでいた。

 今後はBU間のこうした取引をなくし、あるBUの売り上げは、そのBUのみに売り上げや利益を計上させることになる。だから、決算で開示するセグメントにほぼ沿った形になるよう、BUを再編した。具体的には「ITサービス」「ITプラットフォーム」「ネットワーク」「パーソナルソリューション」「社会インフラ」など7つのBUになる。同時にグループ子会社も、関連するBUの傘下に組み込む形にし、会計システムはNEC本体がSaaSのようなサービスの形で提供する仕組みに切り替えていく。

 実はこの再編にはもう1つ、大きな狙いがある。脱不況後の成長である。まず、クラウドなどの新しいサービス事業をいち早く立ち上げる。そのために新設したのがITサービスBUである。複数のBUに分散していたITサービス関連のビジネス・コンサルティングやITコンサルティング、企画、設計、構築、運用、アウトソーシングの機能を、ITサービスBUに集約した。ITサービスBUにはさらに、業種別のソリューション事業本部(官公庁、公共・医療、金融、通信、製造、流通)も置き、NECソフトなど子会社を含めて約3万人のSE体制でのぞむ。

 今回の再編案を練ってきた経営企画部は「NECの課題である複雑化した経営の仕組みをシンプルにした」と説明する。つまり、今回の再編は社内組織における機能の重複などをなくすための、言わば「内向き」の施策である。これだけを見ていると「外向き」、つまり顧客視点が欠けているように見える。

 新しい体制のもとで受注責任を一手に負う営業は、顧客ニーズをつかみ、その内容を素早く製品やサービスのBUに伝え、必要な製品やサービスをスピーディにそろえられるだろうか。その成果は遅くとも1年後に明らかになるはずである。