このコラムではさまざまな業界・応用分野でのRFID利用の現状について取り上げてきましたが、私の勤務先が属する国際物流業界については今までタイミングが合わず記事にする機会を逃してきました。ですが、これは国際物流におけるRFID関係の活動が低調であるということではありません。むしろ、ベンダーによる製品の提案、ユーザーを巻き込んだパイロット、標準化機関での議論など、Gen2規格制定前夜を思わせる活気のある分野になっています。

 今回は国際物流業界でのRFID標準化に向けた活動、特に海上コンテナに関する活動の状況を、私の勤務先MTIがスポンサーになったEPCglobal香港ライブテストのレポートを交えて書きたいと思います。

海上コンテナでのRFID利用の特殊性

 読者のみなさんは海上コンテナをご覧になったことはあるでしょうか。標準的な海上コンテナは高さ2.6メートル幅2.4メートル長さ12.2メートルの鉄の箱。後ろに観音開きの扉が付いていて、この扉からパレットやケースに載せた貨物を詰めていきます。海上コンテナはトレーラーに乗せられトラクターにけん引されるので、道路を走っているときの迫力はかなりのもので、市街地の道路で見かけると私のように見慣れているはずの人間でも一瞬ぎょっとします。

 このように大きな器材なので、RFIDに求められる読み取り距離も通常の器材とは違います。物流で扱う他の器材、例えばケースやパレットでは必要な読み取り距離は数十センチメートルから数メートル。UHF Gen2技術のみで対応できる範囲です。これに対して海上コンテナでは必要な読み取り距離は用途によって数メートルから数十メートル、場合によっては100メートルを超えます。これほど読み取り距離が違うと用途ごとに最適な技術がUHF Gen2と各種アクティブタグに分かれてしまい、価格が極端に違うため大は小を兼ねるアプローチに反対意見が出てくる。結果として標準的な要求仕様がなかなかまとまらないという問題があります。

 海上コンテナは輸送中ほとんどむき出しのままま利用されます。トレーラーに乗せられて荷物の送り主のところに行き、送り主が荷物を詰めた後に封をします。トレーラーで港に送られ、船に積まれるまで屋外に蔵置。その間に税関などの検査もコンテナを単位に行われます。船が来たらコンテナはクレーンで船に乗せられて目的地の港に向かいます。つまり、RFIDを海上コンテナで利用する場合、荷物の持ち主(送り手、受け手)、陸運会社、海運会社、港湾会社、あるいは税関などの多くの輸送関係者が当事者になります。他の物流器材は物流施設内で利用され、移動中はコンテナなどに格納されるので、関係者の種類は海上コンテナに比べて限定されます。それぞれの関係者は当然異なる利害を持っているので、標準化のための合意形成作業もこれに見合って複雑になってしまいます。

 また、海上コンテナは国際的な標準化が非常に進んだ器材です。海上コンテナの本格利用が始まったのは1950年代後半ですが、その時点で標準化への議論が始まっており、1963年にはISO(国際標準化機構)で標準規格が制定されました。例えば、物理的な特性では寸法や重量などの基本的なものだけでなく番号の表記位置などまできちんとした標準があります。また、番号の振り方にもルールがあり、世界に存在する海上コンテナは基本的にユニークな番号を持っているのです。関連事業者もこれらの標準を前提として施設やシステムを整備しており、海上コンテナは標準化作業の最大の成功事例の一つと言われています。

 このような標準が存在するなら海上コンテナのRFID規格の標準化も行いやすいのではないか、そう思われるかもしれませんが、広く普及した標準があるからこその問題点もあります。例えば、海上コンテナは通常海運会社が送り主に貸すことになっており、海運会社は多くのコンテナをリース・レンタルで調達しています。コンテナをすべて自社保有しているのであればRFIDの導入はその海運会社の決断次第ですが、レンタルのコンテナにRFIDタグを取り付けるには業界全体での取り組みが不可欠です。また、コンテナが標準化されていることにより、業務もそれにあわせて標準化・最適化がなされています。RFIDの導入メリットとみなされるものには、しばしばRFID導入に伴う標準化・業務改善が含まれています。海上コンテナ業務へのRFID導入の際にはそれらメリットを見込むことができません。