やはり厳しい。おそろしく厳しい。来年度のユーザー企業のIT予算のことだ。大手製造業を中心に多くの企業で、IT予算が2~3割カットされるのはほぼ間違いない。ちょうど今が、来年度予算の最終決定の時期だと思うが、漏れ聞く情報はそんな厳しい話ばかりだ。ITベンダーにとって来年度は、生き残りをかけた正念場になりそうだ。

 実は、昨年11月にも「来年度のIT予算は、2~3割カットが相場」という話を書いた。ただ白状すると、このときはまだ心の片隅に「そこまで酷いことにはならないのでは」という希望的観測もあった。しかし、3月の期末が近づくにつれて、そんな“弱気の相場観”がどんどんリアライズしてきている。

 念のために言っておくが、新規開発案件の2~3割カットではない。保守・運用も含めた全IT予算の2~3割カットである。今年度中はちまちましたムダ取り策でコストを切り詰めても、それなりにIT予算を執行したが、来年度は予算自体の大幅削減に踏み込む。そんなユーザー企業が多いようである。

 もちろん、すべてのユーザー企業がそんな状況というわけではない。しかし、大きなIT投資を行っていた企業は軒並み厳しい。企業のIT予算のうち7割が保守・運用費と言われているから、IT予算が2~3割カットされれば、新規開発分がほぼ吹き飛ぶ計算だ。実際、既に来年度の新規開発案件をすべて凍結・中止することを決めた企業もあるという。

 従って、このまま行けば新規開発、つまりSI案件の多くが蒸発する。急激なパイの縮小の中で、限られたSI案件に多くのITベンダーが殺到したら、これはもう大変なことになる。安値受注が横行したら、今度こそIT産業は終わってしまうだろう。

 ITベンダーとしては、ユーザー企業に抜本的なコスト削減策を提案するしか、生き残る道はないだろう。つまり、保守・運用費に手をつけてもらうのである。ITインフラがバラバラで、多数のITベンダーに保守・運用を任せているから、保守・運用がコスト高になっているユーザー企業はいくらでもある。ここを狙うのである。

 サーバー統合でも、アウトソーシングの枠組みでもいいから、保守・運用費を大幅に削減する新規IT投資を働きかける。そして、コスト削減が確実に達成されることを保証する。「そんなの無理」との声が聞こえてきそうだが、そうでもしない限り、大型の新規案件を獲得するのはそれこそ無理だ。実際、目先の効く外資系ITベンダーはそんな提案を始めている。

 ところで、これは過酷な椅子取りゲームだ。これまで大手ユーザー企業においては、多くのITベンダーが新規開発や保守・運用で、その顧客シェアを分け合ってきた。しかし、ITベンダーが有効なコスト削減策を提案・実行し、ユーザー企業とWin-Winの状態にもっていくためには、多くのライバル企業をその顧客から追い出さなければならない。

 前回のクラウドの話でも椅子取りゲームだと書いたが、こちらの椅子取りゲームも厳しい。本物の椅子取りゲームは椅子が1つずつ少なくなっていくが、顧客シェアを巡る椅子取りゲームでは、例えば5つあった椅子がいきなり1つか2つになる。来年度はITベンダーにとって本当に正念場である。