「顧客満足度を上げ、ユーザーの期待に応えること」。

 これは富士通の中山恵子経営執行役マーケティング本部長が掲げる、目下の重点課題である。「日経コンピュータ」が毎年実施している顧客満足度調査(関連記事)の結果が、競合メーカーに比べ奮わないのが悩みの種になっている。「このままだと、ユーザーからいつか見放されてしまうのではないか」(同)という危機感がある。

 ITなしには経営改革も、効率化も進まない。今や多くのユーザー企業がそう思っている。だが富士通はその期待に十分に応えているのだろうか---。かつてSIアシュアランス本部長としてSI案件の赤字撲滅に取り組んだ野副州旦社長も、間塚道義会長も懸念している。一方で、今の富士通は国内のSIとソリューションの事業を拡大させない限り、利益確保が難しいという現実もある。

 そこで、総勢約200人というマーケティング本部が、顧客満足度が上がらない原因の究明と対策作りに乗り出した。まずはSIとソリューションの2つの分野に的を絞る。手始めに行ったユーザー企業へのヒアリングでは、特に上流工程での不満が大きいことが確認できた。

 これまで富士通はユーザーのIT部門と協力しながら、ユーザーに言われた通りに開発作業に取り組んできた。個別開発をホームグラウンドとする文化は富士通社内に強く定着している。問題は、ユーザー企業のIT部門も富士通もだんだん、次に何をすべきかがみえなくなってきたことである。

 経営者やユーザー部門の要求が曖昧な場合も確かにあるだろう。だが富士通にとってより深刻なのは、ユーザー企業が中長期的にどのような変革を必要としているか、洞察できなくなったことだ。これは長年同社が、目前の問題解決ばかりを考えたシステム開発やサービス提供に注力してきた影響なのではないか。

 ユーザーは見えている課題の解決だけを求めているのではない。その延長線上にある未知の課題を見つけ出し、その優先順位や場合によっては解決策までも提示するところまでやってこそ、期待以上の成果に満足するのである。

「ここ10年、IBMをまじめに分析してこなかった」

 競合メーカーはどうしているのだろうか。中山氏が注目するのはIBMである。「ソリューション提案以前に、こうやるべきだ、あるべき姿はこうだ、などといったビジョンを説明している」と指摘する。これを実現するには、数年後の技術革新、社会や産業、個人レベルの変革を予測し、そこに技術をどう適用していくか、といったことまで踏み込んだ検討が必要だという。だが「富士通はこの10年間、IBMの動向を深くみてこなかった」と中山氏は言う。

 富士通は世の中の変革を見ず、目前の1企業のことしか見ていないのではないか。先々代の秋草社長時代は、サービス事業へのシフトを推し進め、黒川社長の時代になると今度はITプラットフォーム事業の強化へと動き、という流れの中で、あるいは、SIやソリューションの担当部門に待ちの姿勢が身についてしまったのだろうか。

 その結果、会計システムをすでに持っているユーザーに、半ば自動的にERP導入を薦めるというような、守りの提案活動に甘んじる空気が醸成されてしまった。変革を求めているユーザーには、業務プロセスから見直す提案が欠かせないのだが、富士通にはそこが不足していることがわかったのだという。

 今後マーケティング本部が取り組むのは、ユーザー企業の抱える中長期的な課題や改革の内容を想定した提案パターン群の開発である。これを富士通社内やパートナー企業、ひいてはユーザー企業に浸透させ、さらにユーザー企業からの反響などを吸い上げることもマーケティング本部の役割になる。

 ただ、こうした取り組みをユーザー企業向けの提案にも反映させるには、マーケティング本部やSI/ソリューション事業の担当部門だけでなく、もっと広い組織の関与が必要だと感じる。この話で1つ思い当たるのは、同社の環境事業本部を中心とした取り組みである。

 ユーザー企業が現在実施している環境活動を評価し、改善提案を行うコンサルティングと、既存の環境業務ソリューションを合わせて提供する仕組みなのだが、評価サービスでは経営への影響なども業務プロセスごとに診断して、課題を明らかにするという。その上で解決に役立つソリューションを提案するというものだ。富士通と富士通総研が共同で提供するサービスである。

 顧客満足度向上の取り組みで難しいのは、顧客にばかり注目していると、社会や産業、個人の変革を考慮した提案が難しくなることだ。だからこそ、SIやソリューションなどを担当する部門だけでなく、コンサルティング部隊などに枠を広げた取り組みが必要なのだ。