1月の終わり,大手ユーザー企業3社と勉強会をするため大阪へ行った。3社のIT部門を統括する方が,大学の同期同窓であることが開催のきっかけだ。3社とも2009年度から次期中期5カ年計画が始まるという。勉強会では各社が次期中期でどんなテーマに取り組むかが発表され,意見交換した。

 ネットワークばかりやっている筆者にとって,新鮮な話が多くとても勉強になった。会社ごとにプレゼン資料のまとめ方にも特徴があり,それも面白かった。中でも,深いブルーと淡いクリーム色を効果的に使ったスライドがきれいで,これは参考にしようと思った。内容が充実していることは当然重要だが,人に気持ちよく見てもらえる資料を作ることも大切だ。

 筆者は90分でネットワークに関連する色んな話をさせていただいた。一つの目玉は前回のこのコラムでも少し触れた有償版Gmailと,筆者が注力しているオープンソースをベースとしたメールの対比だ。大手企業のGmail導入が報じられているが,筆者はこれをきっかけに企業のメールシステム見直しが進むことを期待している。それによってユーザーはメールの利便性や経済性を高められるし,Gmail以外のメールやグループウエアにも商機が増えるからだ。

 筆者は改めて「メールの役割とは何だろう?」と根本に立ち返って考え直している。今回はその一端を紹介したい。メールは捨てるべきものか,貯めるべきものか,というのがテーマだ。

入社以来,13年間メールを貯めているA君

 10数年前までビジネスにおけるコミュニケーションの主役は電話だった。しかし,パソコンが一人一台になりインターネットが爆発的に普及した結果,メールが電話にとって代わった。今や1日に5本以上電話がかかってくる人は珍しいが,メールを50通以上受信する人は普通にいる。

 メールの使い方も変わってきた。ネットワークがブロードバンドになったおかげで大きなファイルを簡単に送れるようになった。パソコンやサーバのストレージが安価,大容量になり,メールを大量に貯めることが出来るようになった。そうした動きの象徴とも言えるのが有償版Gmailだ。メールボックスには25ギガバイトまで保存できる。

 だが,メールを貯めることに価値があるのだろうか。

 筆者の提案・設計チームの中に面白いメールの使い方をしている人がいる。A君という,うちのエースの一人だ。彼は96年の入社以来,現在まで受信したすべてのメールを保存しているのだ。自分が送信するメールで貯めたいものはccに自分のアドレスを入れるそうだ。

 96年から2008年までの13年間でどれだけ貯まっただろう? 筆者とA君との会話を紹介する。

「何のためにメールを貯めているの?」
「特に目的はないです」
「役に立つことはある?」
「年に1~2回,『この件は以前お客様やベンダーさんとやりとりしたことがあるな』ということがあります。以前検討したことや調べたことを引っ張り出して使えるのです」
「年に1~2回かあ。それにしても面白いことしてるねえ。定年まで続けるとすごいね」

 入社以来のメールを貯めておくことに実用的価値はほとんどない。しかし,こんな人が1万人に一人くらいいるのは面白い。社員全員がやったのではムダが大きい。

 さて,答だ。13年間で貯まったメールの量は15ギガバイトで21万3600通,平均メールサイズは70キロバイト,1日平均メール数は45通だという。平均メール数は1年365日で割算しているが,平日に限れば60通から70通になるだろう。

 A君は提案,設計,プロジェクト管理を仕事にしているので一般の人よりメールの利用は多く,添付ファイルを使う頻度が高いためサイズも大きい。そのA君でさえ13年で15ギガバイトしか貯まらないのだ。Gmailの25ギガバイトいう大きさは「へえー,大きい」と思わせる効果はあっても有用性があるとは思えない。 

 単に容量が大きすぎるというだけではない。メールを貯め込むということ自体が「目的にそぐわない使い方」だ。その理由は後述する。A君は特殊な例だが,企業ではどの程度の容量のメールボックスを使っているのだろう。情報化研究会の会員1000人あまりに2月12日夜,緊急アンケートをお願いし,翌日までに96人から回答を貰った。その結果はグラフのとおりだ(図1)。

図1●メールボックスのサイズ(n=96)
図1●メールボックスのサイズ(n=96)

 100メガバイト前後を中心に正規分布するだろうと予想したのだが,意外な結果だった。無制限が3割を超える一方で50メガバイト以下も4分の1近いという2極分化的な分布だ。無制限を除いた容量の平均値は460メガバイトだ。サンプル数が100足らずなので統計としては説得力が弱いが,こんな感じかということは分かった。筆者の愛読書である情報通信白書は電話関係の統計が充実しているが,メールに関する統計はない。電話はキャリアによる課金できっちりデータが取れるのに対し,メールは無料で使えるのでデータを押さえるのが難しい。しかし,今や電話時代ではないのだからメールの統計を取る工夫をしてほしいものだ。