前回は日本で知られていないRFIDの利用分野として医療機関のRTLSを取り上げましたが、今回もやはり日本での報道が少ない利用分野を取り上げたいと思います。とはいってもITpro読者の皆さんにとってはなじみの薄い分野ではありません。データセンターでのITアセット、具体的にはサーバーやブレード、ルーターの管理にRFIDタグを使うという用途です。この分野では昨年に米国で大きな動きがあり、その動きが世界へと影響を与えそうな気配があります。

 米国でもデータセンターでのITアセットの管理はデータセンター運営者の悩みの種です。サーバーやルーターなどの納品から廃棄までのライフサイクルの管理や定期的な棚卸し作業は、顧客との契約に加えSOX法などの規制によって詳細が定められています。特に負担の高いのは棚卸し作業。ラックにあるサーバーやルーターのラベルを腰をかがめながら読み、ノートにチェックしていく大変な作業になります。ラベルをバーコード化して読み取りにバーコードリーダーを使うことでノートへのチェックを省くことができますが、小さなラベルを読み取り範囲の狭いバーコードリーダーでスキャンする作業はそれはそれで大変な作業です。

 RFIDを使うことでこの読み取り作業が大幅に省力化できます。大出力の固定式リーダーを使って一括読み取りをする場合はもちろん、ハンドヘルド式のリーダーを使ってもバーコードよりも遠くから複数タグを同時に読み取ることができるので、作業負荷が激減するのです。IBMが行った調査では、150個のアセットの棚卸し作業を文字ラベル、バーコードラベル、RFIDラベルで比較したところ、RFIDラベルを使った場合の作業効率は文字ラベルの11倍、バーコードラベルの6.5倍という結果が得られたそうです。

ITアセット管理でのGen2パッシブ技術の利用

 RFIDをデータセンタでのITアセット管理に利用することは以前から行われていました。ですが、従来、主に利用されていたのはアクティブタグでした。データセンターのITアセットにせよ、それを設置するラックにせよ、材料の多くは金属です。通常のパッシブタグでは金属のために読み取りが困難な一方、絶縁体のスペーサーを付けた金属対応タグだとサイズが大きくなりすぎるため、小型のアクティブタグを利用する必要があったのです。この種のアクティブタグには標準が存在しないので、タグベンダーは独自仕様の製品を販売し、それを使ったソリューションもまた独自仕様、という状態が続いていました。アクティブタグにはさまざまな付加価値をつけることができるため、例えば温度計機能を相乗りさせることができる、RTLS機能によって位置測定ができる、無線LANを利用することで独自インフラが必要ない、などのさまざまな製品が提供されています。

 この状況が大きく変わったのが昨年前半です。小型でありながら金属に直接取り付けても性能が低下しないGen2パッシブタグが登場したのです(この話は連載第1回で触れています)。このジャンルの代表ベンダーはOmni-IDですが、他にもConfidexやSONTECなどからも小型の金属タグがリリースされています(この2社は日本の周波数に対応したバージョンも提供しています)。金属対応のGen2パッシブタグはアクティブタグより安価であるため、従来の予算枠でベースシャーシ単位で取り付けていたものを個々のブレードサーバーに取り付けることができるようになります。また、電池切れなどのメンテナンスの手間がいらない、標準製品であるためにリーダーやミドルウエアなどの関連製品も低価格であるという特長もあります。

 金属対応Gen2パッシブタグ製品の登場を受け、昨年の半ばにはこれら製品を用いたITアセット管理ソリューションが提供され始めました。特にIBMやヒューレット・パッカード(HP)など、ハードウエア・ベンダーでもありソリューション・ベンダーでもある大手IT企業の参入が目立ちます。

 IBMはOmni-IDとパートナーを組み、同社のタグを使ったソリューションの提供を始めました。利用するタグはOmni-IDの最小のタグProxで、タグのサイズは35ミリx10ミリ×4ミリ。このソリューションではタグの出荷時にIDが書き込まれ、タグの表面には同じIDがテキストとバーコードで印字されています。IBMはこのソリューションのスタートアップパッケージを提供しており、タグ5000個、RFID・バーコード両対応のハンドヘルドリーダー2台、Windowsサーバと資産管理アプリケーションのすべてを含んで10万ドル弱という価格です。

 一方HPは、サーバー・ストレージ製品の導入サービスであるファクトリーエクスプレスで、Gen2パッシブタグの取り付けやデータの書き込みを出荷時に行うサービスを開始しました。このサービスの費用はタグ1つについて5ドルから10ドルです。また、HPの研究部門HPラボで開発したRFID対応のITアセット管理サービスも提供しています。