金融危機を発端に経営環境が激変する中,IT部門の変革がとりわけ強く求められています。IT部門のミドルマネジャを育成するにも,「従来のやり方では,うまくいかないのではないか」と感じているCIOやIT部門の責任者は多いはずです。

 この解決策の1つに,IT部門の“新陳代謝”があります。

IT部門の新陳代謝とは

 一般に「新陳代謝とは,古い細胞が新しい細胞に生まれ変わること」の意味で用いられます。これをIT部門に置き換えてみると,「IT部門に定期的に新しいメンバーが入り,古いメンバーと入れ替わること」といえます。

 しかし,IT部門にとっての新陳代謝は,この意味だけではありません。「古いメンバーが新しいスキルを習得し,結果的にIT部門全体が生まれ変わること」という,別の意味があることを忘れてはいけません。

 それはなぜか。人間は細胞と違って,モノではありません。「古いものを新しいものに取り替える」発想だけでは,IT組織は維持できないと考えることが大切です。

 例えば,ITSS(ITスキル標準)やUISS(情報システムユーザースキル標準)などのITスキル標準を見てみましょう。スキルの中級や上級になるにしたがって,知識だけでなく,経験や熟練の重要性が増してきます。

 「IT部門のメンバーの経験は浅くてよい,熟練も必要ない」として,重要なITプロセスを外部のベンダーに丸投げ(アウトソーシング)してしまう傾向があります。この発想は,あまりにもIT部門の価値を軽視していると思えてなりません。

IT部門の新陳代謝を促す人事交流

 それでは,IT部門の新陳代謝を促す具体的な方法には,どのようなものがあるのでしょうか。1つは,現在,IT部門にいる人材を直接スキルアップする方法です。

 これには,社内教育とOJT,外部研修,自己啓発が用いられます。これらについては,この連載で継続的に述べていきます。

 もう1つの方法は,ビジネスの現場とIT部門の間で適切な人事交流を進めること,つまり,IT部門に現場部門の従業員を取り入れ,IT部門の人材を現場部門に異動させること(人事交流)です。組織全体の新陳代謝まで促進させることが可能です。以前からある考え方ですが,今でも十分な人事交流をしている企業は稀です。

 下の図を見てください。この図は,ビジネスの現場とIT部門の従業員を相互に人事異動させる場合のアンケート調査,あるいは自己申告の内容や異動後の役割や育成について概説したものです。

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