まあ、このご時勢なので、IT分野でも景気の悪い話ばかり。商談の案件の絶対数が減る中で、コスト削減をテーマにした案件ばかりが目立つようになった。ところが、コスト削減をテーマにした案件も一筋縄では行かない。ユーザー企業に「コスト削減のためにIT投資をしましょう」と言ったところで、ユーザー企業は投資に伴うキャッシュアウトが怖い。さあ、どうする。

 いま多くの企業で大号令がかかっている「コスト削減」って、チマチマした経費節減の話がほとんどだ。「残業の禁止」や「出張の抑制」、さらには「カラーコピーの禁止」といったことまで、要は現金の社外流出を可能な限り抑えましょうという話。もちろん信用不安が高まっている昨今では「現金が王様」だから、これは致し方がないことだ。

 ITベンダーの中には、こうしたユーザー企業のニーズに応えて、現金流出を抑制するためのソリューションを数多く品揃えしているベンダーもあるようだが、これはなかなか辛い。ユーザー企業に対する“得点”にはなっても、儲けは薄い。第一、SIerなら巨額の現金流出を伴うIT投資をしてもらえないと、ビジネスの根幹が揺らぐ。

 本来なら、コスト削減の王道はそのための投資をすることだ。情報システムを刷新することで、一時のキャッシュアウトを伴っても、生産性の向上を図り将来のコスト削減につなげるというのが理想。ただ、キャッシュリッチでファイナンスも楽なら問題ないが、なんせ今は銀行が融資先に「不要不急のIT投資はするな」と説いて回っている始末。現金が王様では、コスト削減のための投資という王道を行くのは難しい。

 ということはITベンダーも、コスト削減のためのIT投資をテーマにそれなりの商談を獲得したいのなら、ユーザー企業の損益計算書に効くだけでなく、キャッシュフローにも目配りした提案ができないといけない。そう言えば、ある大手ITベンダーの人から、こんな面白い話を聞いた。

 その話とは、いわばユーザー企業に眠る“IT埋蔵金”の活用だ。ユーザー企業のIT資産に着目し、まずそれをオペレーティング・リースを使って“換金”することを提案する。そして、得たキャッシュの一部を、コスト削減のためのIT投資、あるいはもっと前向きのIT投資に振り向けることを提案し、その案件を獲得するのだという。

 ほかの大手ITベンダーからは、レベニュー・シェア(成功報酬型)モデルを活用すると聞いた。構築した情報システムがコスト削減に寄与したら、そのコスト削減分の一定割合をITベンダーの取り分として支払ってもらうというモデルだが、以前ならROIの明確化なっていう文脈で提案していたものだ。しかし今は、初期のキャッシュアウトを極力抑えたいユーザー企業に効く提案になったという。

 もちろん、こうした提案は、ITベンダーにファイナンス・ノウハウや高いリスク管理能力がなければ不可能だ。だからと言って、このご時勢に“御用聞き営業”では辛い。コスト削減、現金流出の抑制というユーザー企業の課題に対する“ソリューション”が、十年一日のごとくSE料金の単価引き下げでは本当に先はない。あの手この手の本物のソリューションが求められている。

 で、蛇足を付け加える。「それなら、必要なのはSaaSやクラウド・コンピューティングの提案でしょ」とツッコミに対する答えだが、全くその通り。ただその場合、今度はITベンダー側に巨額のキャッシュアウトを伴うIT投資が必要になる。しかも、この投資はコスト削減よりもレベルの高い、事業変革のための戦略投資だ。現金が暴君でないことを祈る。