ある中堅SEから「私はお客様の部長や課長の方と話す機会がほとんどありません。どうすればよいでしょうか」という質問を受けた。それに答える意味で“SEの部課長訪問”について筆者の考えを書いてきた。今回がその3回目だ。

 これまでの2回は“部課長訪問のきっかけ作りと部課長訪問のポイント”について述べてきた。その中で「SEが現在取り組んでいるプロジェクトやSEに対する顧客の部課長の考えや意見を十分把握しているか,また,いかに部課長にプロジェクトに参画してもらうかは極めて重要なことである。とりわけプロジェクト・マネージャやリーダーにとっては不可避である。それがプロジェクトの進捗や正否を大きく左右するし,顧客の満足度や今後のビジネスにも影響する」と部課長訪問の重要性を述べ,SEは顧客の部課長を積極的に訪問すべきであるという主旨のことも説明した。

 5~6年前のことだが,筆者はある大手SI企業のプロジェクト・マネージャやリーダークラスを対象に講演したことがある。講演には約80人の出席があった。そのとき「顧客の部長か課長を積極的に訪問して,プロジェクトの進捗や問題点などの話をしている人は手を挙げてください」と質問したところ,挙手をされたのは約30%だった。

 筆者が思うに,この数字はあまりにも少なすぎる。プロジェクトに責任を持つSEなら,もっと顧客の部長や課長と積極的に会いプロジェクトの状況などを話し意見を聞くべきだ。そうでなくても顧客の部課長はベンダーのプロジェクト・マネージャやリーダーの率直な意見を直接聞きたいと思っているものだ。ぜひSEの方々は顧客の部課長を訪問して話せるようになってほしい。さて,今回はまとめの意味も込めて部課長訪問の効用について読者の方と考えてみたい。

部課長訪問の7つのプラス

 SEが部課長訪問を行うと,顧客の部長や課長に“プロジェクトの状況などを分かってもらえる,プロジェクトに参画してもらえる”など直接的な効用についてはこれまで再三述べてきた。そのほかにも,部課長訪問には様々なプラスがある。SE自身の仕事のやり方が変わったり,社内の発言力が増したり,またSE自身が大きく成長したりする。以下,筆者が特に強調したい7点について具体的に説明する。部課長訪問の経験が乏しいSEの方々の参考になれば幸いである。

(1)自分の日頃の仕事振りに自信が持てる

 部課長訪問を行なえるSEは,自分の仕事振りが顧客に評価されていると考えてよい。言い換えれば,日頃顧客と壁を作ったり,「与えられたことだけやればいいや」などという気持ちで仕事をやっているSEには,部課長訪問は決して出来ない。もちろん,担当者の評判が悪いSEは言うまでもない。そんなSEは仮に部課長訪問をやってみても,せいぜい1~2回は付き合ってもらえるが長続きはしない。日頃顧客と一体感をもって一つのゴールを目指して仕事やっているSE,やるべきことをしっかりやっているSE,時には顧客の担当者と口論したり顧客の課長に「こうしないとプロジェクトがうまくいきません」などときちっと言ったりしているプロらしいSE,そんなしっかりした姿勢で仕事に取り組んでいるSEこそが部課長訪問が出来る。敢えて言えば,SEの部課長訪問は顧客とSEの信頼の証でもある。部課長訪問をやっているSEは「自分はお客様に信頼されている」と自信を持ってよい。逆にそうでないSEは自分の仕事のやり方を自己点検してみるのも一策である。

(2)仕事を効率的・効果的に進めることが出来る

 部課長は担当者より権力がある。社内で顔も効く。担当者が出来ないことでも手を打てる。ユーザー部門を動かすことも出来るし,経費の決済権限などもある。言い換えれば,SEが担当者に頼んだことで,担当者ではできなくても部課長なら出来ることがある。従って,SEは困ったときには部課長を訪問してそれを頼んでみることだ。するとプロジェクトで助かるケースもままある。仕事がより効率的に進むし,より効果的な仕事ができる。もちろん,ピンチにも強くなる。SEの中には担当者とばかり仕事をするSEがいるが,一生懸命やるだけが能ではない。

(3)担当者に対して発言力が増す

 プロジェクトをやっていると,いろんな問題が起こる。そんな時に顧客の担当者が「こうやりたい...」と思っても,上司の部課長に言い難いこともある。それを第三者のSEが代わりに言ってあげると担当者は助かる。SEの株も上がる。また,担当者が素晴らしいことをされたときなどには部課長に「○○さんはすご腕ですね~。○○さんがいないとプロジェクトがうまくいきません」などと言ってあげると,担当者は悪い気はしない。こんな類のことをSEが行うことで,担当者に対するSEの発言力は増すものだ。なお,担当者はSEが部課長と親しく話している姿を見るだけでも気になるものだ。そんな姿をSEが見せるだけでも,SEに対する担当者の見方も変わる。