年が明け、オバマ氏が大統領に就任しましたが、流れるニュースは国内・国外共に大量解雇とか最大の損失とか不景気な話ばかり。目を通すたびに憂鬱な気分になります。海外のRFIDメディアもその例外ではありません。2008年の秋ごろにはこれらメディアはRFIDマーケットにはある程度楽観的でした。不況の初めの時期は投資の差し止めや余剰人員の解雇など目先のコストカットが中心になるとしても、それらが落ち着いたら本格的なコスト削減に取り組む必要があります。現在の海外でのRFIDの売れ筋のソリューションは1年以内に投資が回収でき、投資の絶対額も小さいため、そういったコスト削減プロジェクトのビジネスチャンスを掴むことが可能だ、というのが楽観論の理由でした。ですが、この見通しが出た後も景気の悪化が続いて「落ち着いた」という状態にならないので、そういったビジネスチャンスは今のところ現実になっていません。

 他の分野でRFID導入の動きが停滞する中、相対的に堅調な導入が続いているのが医療・福祉分野です。今回は医療・福祉分野でのRFID利用について書きたいと思います。

 医療・福祉分野には、流通業におけるウォルマート・ストアーズのような企画力と調達力を兼ね備える圧倒的なユーザは存在しません。このため、規模の大きさから事例に注目すると、医療・福祉分野ではどうしても医薬品トレーサビリティー(e-ペディグリー)のような政府主導・業界横断のシステムに目が行ってしまいます。ですが、医療・福祉分野で活発な導入が進んでいるのは企業や病院などが個別に導入しているクローズドなシステムです。例えば医薬品流通に関わるものとして薬品棚のスマートキャビネット化があります。高価で有効期限の短い薬剤の在庫を単品で管理し、利用の際に期限が先に切れるものから取り出すようサポートするシステムは、医療機関と医薬品会社双方にメリットがあるものです。また、医療用器材の検品支援も事例の多いシステムです。手術で使う器材では、使われる可能性のある部品を多種類含んだキットを器材メーカーが発送し、手術をしてみて必要と分かった部品だけを使って残りを器材メーカーに返送するということが行われます。良く似た多数の部品を検品する手間は非常に大きなものですが、必要な部品が入っていないことが手術室まで分からなければ医療事故に直結します。部品のそれぞれにRFIDタグを取り付けることで、検品作業の効率・正確性が大きく改善します。