昨年7月末,情報化研究会の旅行で備前焼を作った。その作品が12月はじめに窯で焼かれ,クリスマスに手元に届いた。備前焼は一般の焼き物と違って絵付けをせず釉薬(うわぐすり)も使わず,薪(まき)とわらで焼きあげる。焼き物の表面に薪の灰がついてできる胡麻(ごま),青や灰色の模様である桟切(さんぎり)など,窯変(ようへん)と呼ばれる偶然で色や模様が出来るのが備前焼の面白いところだ。

 形を作ったときには写真1のように黒灰色をしていた。焼き上がりが写真2だ。二つとも筆者の作品なので窯の中でさほど離れた位置にはなかったと思うのだが,これだけの違いが生まれる。一緒に作陶した11人のうち8人の作品をWebで公開した。形は作者が作為的に作るので個性が現れるのは当然だ。しかし,偶然できるはずの色や模様も作者の個性が出ているようなので驚いた。個性の強い人の作品は,色や模様も個性がある。とても面白い。形は不格好だが,自分の作った器でお茶など飲むのも楽しい。次の機会にはもっとたくさん作ってみたい。

写真1●情報化研究会の旅行で作った備前焼。形を作ったときは二つとも黒灰色
写真1●情報化研究会の旅行で作った備前焼。形を作ったときは二つとも黒灰色
[画像のクリックで拡大表示]
写真2●焼き上がりはこんなふうに。色や模様がこんなにも違う
写真2●焼き上がりはこんなふうに。色や模様がこんなにも違う
[画像のクリックで拡大表示]

 突然話は変わる。今回はフィギュアスケートの浅田真央選手のインタビューに触発されて考えた提案書作成について述べたい。

“elements”を抑えることの大切さ

 筆者に限らずフィギュアスケートのファンは多いだろう。演技の美しさもさることながら,日々のトレーニングを積み重ね,強烈なプレッシャーの中で戦う選手が,一人ひとり小さなドラマを持っていることに心を惹かれる。年末のNHK杯では摂食障害で6年もリンクから遠ざかっていた選手が大舞台に復活していた。テレビで見ていてもその喜びが演技や表情から伝わってきた。

 今シーズンの主役はもちろん浅田選手だった。NHK杯,グランドチャンピオン・シリーズ,全日本選手権と三つの大会の優勝をさらっていった。その彼女のインタビューの中で印象に残った言葉がある。“elements”(以下,エレメンツ)だ。

 フィギュアスケートの採点方法は2002年のソルトレーク五輪で不正な採点が問題になったのを機に主観を極力排除し,客観的な評価が出来るよう改められた。技術点,構成点,ディダクション(減点)から算出される。演技全体がまとめて評価されるのではなく,ジャンプ,スピン,スパイラルシーケンスなどのエレメンツ(演技の構成要素)が評価の対象となり,その合計が得点になるのだ。女子フリー演技は4分間。選手とそのコーチは最高の得点を出すために,どんなエレメントをどんな順序でどんな曲にのせて演技するのがベストなのか,選手の長所・短所を考えて構成するのだろう。そして,一つひとつのエレメントに磨きをかけていく。

 提案書は我々,ネットワークやITの世界で仕事をする者にとって重要な作品だ。提案書はお客様によって評価され,それによって採否が決まる。提案書にもフィギュアスケートと同様,エレメンツがある。提案書に含めるべきエレメンツが何か考えることもなく,お客様がそれらのエレメンツに対してどんな重みづけで評価するかも考えず,単純に自社の持っている製品やサービスをくどくどと解説し,見積もっただけの提案書を作ってはいないだろうか? そんな人は浅田選手にツメの垢(あか)でも貰うといい。