「2009年5月までに100人規模の開発センターを地方に設置する」。

 こう意気込むのは、ソフト開発のインディア アクション プラン(略称IAP、東京都文京区)のニレンドラ・ウパデアーエ取締役だ。この数年間、5億~10億円の間で推移してきた売り上げを、3年後に大きく伸ばすため、インフラ整備などへの投資を決断した。コスト競争力と技術力を売りに事業を拡大させる機会が到来したということなのだろう。

 IAPは、東京大学大学院を卒業したインド人が96年に設立した会社である。以来、日本企業向けにソフト開発ビジネスを展開してきた。多数のインドのIT企業が営業拠点として日本法人を設立し、日本企業からソフト開発を請け負っているが、その事業範囲は、組み込みソフト開発など特定の分野に限られていることが少なくない。

 「細かな仕様変更への対応などを考えると、インドから日本の仕事を取るのはなかなか難しい」とウパデアーエ氏はその理由を語る。事実、インド企業が日本企業にコスト削減策として提案したオフショア開発でも、失敗例が出ている。

 日本語の壁だけでなく、欧米市場とは異なる技術やノウハウが求められるという難しさがある。例えばサーバー1つをとっても、NECや富士通などの国産製品が普及しており、それらに対応するローカルな技術も必要になる。もちろん、ビジネス・プロセスも欧米企業とは異なる。

 そこで、日本のソフト開発会社であるIAPは「日本で開発すること」を基本戦略とした。国内の開発技術者は約100人おり、日本人が3割、インド人が7割という構成だ。仕事量に応じて、インドの提携企業の技術者を日本に招いたり、オフショア型の開発で対応したりすることもあるが、この点は日本のソフト開発会社も同様である。

「日本の地方都市に開発センター」の狙い

 現在のIAPの守備範囲は、家電製品向けなどの組み込みソフト開発や金融ユーザー向けの業務システム開発などである。ある証券会社の基幹系システムを、2年間でCOBOLからJavaにマイグレーションした実績もあるという。

 そんなIAPが日本の地方都市に開発センターを設置するのはなぜだろう。理由の1つは、上記のようなレガシー・マイグレーションの要請が、地方の金融機関などから高まるだろうとの読みである。「古いシステムは保守コストもかかる。マイグレーションを積極的に提案していく」(ウパデアーエ氏)。

 見逃せないのが「オフショアは絶対したくない。だがコストは抑えたい」というニーズである。こうしたニーズを持つ金融ユーザーに対しては、「国内主体で開発を進めても、当社なら2割から3割は安価にできる」と、コスト効果をアピールするという。
 
 次のターゲットは、グローバル展開を進める企業である。ここで、日本語と日本文化を理解したインド技術者が強力な武器になる。プロジェクトにこうしたインド人技術者を参画させれば、顧客が欧米市場に進出した際のサポートもしやすいからだ。さらに、英語に堪能なインド人技術者は、オープンソースなどの最新技術動向に明るく、顧客のシステムに最新技術を取り入れやすいこともメリットだ。

 ウパデアーエ氏は、プロジェクトにインド人を配置すると活気が生まれる、とも指摘する。日本人とインド人では、開発に対する取り組みや考え方が違うし、モティベーションの持ち方も違う。一緒に働くことで、日本人技術者もよい刺激を受けるのだろう。

 IAPの目下の課題は、コスト構造をいかにして日本のユーザー企業に納得してもらうかである。「どうやってコストを下げているか、ユーザーにどんな価値を提供できるかを説明しているが、理解してくれるユーザーは1割程度」(ウパデアーエ氏)だというのだ。新設する開発センターには、ユーザーへのよい説得材料になってほしいという期待もこめられている。