今年最後の「針路IT」なので、拙著の紹介を兼ねて思うところを書く。世界のIT市場はこの10年間で2倍近くに拡大したが、日本のIT市場は微増にとどまっている。国内のハード販売は低迷し、頼りのSI案件は縮小傾向である。

 日本のIT産業は、これまで富士通、NEC、日立製作所などの大手ITベンダーを中心として形成されてきた。彼らがIT産業を牽引する力を持っていたからだ。だが昨今の業績を見る限り、大手ITベンダーに依存した形のまま大きく浮上することは難しい。産業構造を見直し、世界に通用する商品開発に取り組む必要がある。

 これが、約1年前、2007年12月に上梓した「IT産業崩壊の危機」(日経BP社)のメイン・テーマであった。

 プロセッサではインテル、OSではマイクロソフト、ミドルウエアではオラクル、そしてアプリケーションではSAP。日本のIT市場は次々と欧米のITベンダーに席巻され、国産ITベンダーは彼らの販売代理店という立場に追い込まれた。さらに次の主戦場となるサービス分野でも、セールスフォース・ドットコムなどに市場を抑えられつつある。

 では再生のチャンスはどこにあるのだろうか。この1年間の取材を基に今月(2008年12月)再度上梓したのが「IT産業再生の針路」(日経BP社)である。

 大手ITベンダーの今日の業績には、グローバル戦略における出遅れ、研究開発費の抑制というテクノロジー軽視のツケが、如実に現れている。そこで、欧米ITベンダーとの協業に活路を見出そうとしているのだが、その欧米ITベンダーが日本の大手ITベンダーと協業したい理由は明白だ。

 日本のITベンダーが数多く抱えている日本の優良顧客に商品を売り込むためだ。このままでは、おいしいところを欧米ITベンダーに持って行かれかねない状況なのである。

打開策はいくつもある

 だが、ほかに打開策になりそうなものはいくつもある。その第一が、技術力のある中小ITベンチャーである。日本には、魅力的なサービスを提供する中小ITベンダーが少なからずあり、彼らとの協業が考えられる。大手ITベンダーはこれまで、彼らの力を見くびっていたのか、無視していたようなフシもあった。自社の利益を守るために、将来性のある企業を潰してきたという見方もできる。

 だが、日本のIT産業が成長するために、ITベンチャーの育成は欠かせない。育成して、競争力のある“部品”としてうまく活用すればよい。

 大手ITベンダーは当然、グローバル戦略とそれに必要な商品作りにも注力しなくてはならないが、ここでも国内ITベンチャーの商品を活用し、日本の強み(例えば製造業向けのITビジネスで培ったサービス)を武器に世界に出て行くチャンスを作れるだろう。

 一方、中堅・中小ITベンダーは、IT産業が構造転換を迫られているこの機を、下請けから脱却するチャンスととらえるべきだ。ただし差別化できるサービス商品を開発することがその前提になる。

 それこそ10年以上も前から言い続けていることだが、技術、業種、業務などで得意分野を明確にしなければならない。逆にインドや中国のITベンダーと真っ向から勝負するつもりなら、生産性を10倍に高める策を編み出さなければ、勝ち目はない。

 ここでの打開策は、ユーザー企業との協業に尽きる。もちろん、ユーザーから言われた通りにシステム化するということではない。ユーザー企業がこれから取り組もうとしている新規事業などに、IT面から深く関与することだ。

 理想は、システム化を担い、ユーザーと事業のリスクをシェアし、収益も分配する形である。つまり事業の成功に責任を持つということだ。

 今や、大手から中小まで日本のIT産業全体が、労働集約型から知識集約型への転換を迫られている。各方面のエキスパートを育てるなど、人材育成の強化は必須だ。人月ベースの請負型システム開発がなくなるわけではないが、明らかにマーケットは縮小傾向にあり、早晩、中国企業並みの単価を求められるようになるかも知れない。

 顧客との関係においても、解決すべき課題はある。例えば必要性のない機能をいたずらに開発したり、開発期間を引き延ばしたりすることは、使わないシステムという不良資産を作り出すだけである。顧客を無視した利益優先のビジネスを展開する企業は、いよいよその存在を問われることになるだろう。

 構造転換期を生き伸びるには、組織に活気が必要である。拙著では、活き活きとした組織作りの必要性についても触れた。