前回は,閉塞感に襲われる厳しい経営環境の中で,新技術によって新市場を開拓しようとする超元気な大手SIerや中小企業を見た。今回も,新技術に挑戦する元気な中小企業などを見て,ブレイクスルーのエネルギーにしよう。

 まず,新技術に挑戦する中小企業の例である。

 東京都目黒区のブイキューブは,競合企業にない特徴を持ったビジュアルコミュニケーションツールを開発・販売しており,その市場占有率は2006年度に19%,2007年度に25%と,2位のそれぞれ18%,16%を圧倒的に引き離しつつある(ブイキューブ談,シードプランニング社データより)。2008年度の東京都ベンチャー技術大賞も受賞している。

 通常のテレビ会議システムを導入するには,専用機器の購入やソフトのインストールが必要になる。しかしブイキューブのWebテレビ会議サービス「nice to meet you」は,専用ソフトのインストールが不要で,インターネットとWebブラウザさえあれば,WindowsやMac OSのどちらでも動作する。また,テレビ会議だけでなく,いろいろなアプリケーションも用意している。例えば,会議・セミナーなどの録画映像やライブ配信を一括管理して情報配信・社員教育・eラーニングなどに役立てるコンテンツマネジメント・システム,営業支援ツールなどである。また,「nice to meet you」にはECOメーターがあり,Web会議によってCO2排出量・交通費・時間などをどれだけ削減できたか表示確認できる。

壁紙再生システムと中間処理品の買取を一括で請け負う

 千葉市のモノベエンジニアリングは,油からアスベスト排水,バラスト水,液体,食品,化学薬品,粉塵に至るまでのろ過装置に,世界唯一の技術を使っていると自慢する。

 通常のろ過には,ステンレス製の網やテフロンなどの膜,または巻いた糸などを使用する。だが,モノベエンジニアリングは用途によって樹脂あるいはSUSを巻いてバネのようになった筒状のフィルターを使う。特長は,シンプルな構造で強靭,高速な精密ろ過,メンテナンスが著しく簡単,そして産業廃棄物が出ないので環境にやさしいという点だ。

 この製品のデメリットは,壊れにくく長寿命なためリピートオーダーの間隔が長く,販社が扱いたがらない点だそうだ。むしろ海外(中国,インド,フィリピンなど)で人気があるという。モノベエンジニアリングは今後も海外へどんどん販路を拡大し,売り上げ増を図りたいと張り切っている。

 東京都千代田区の三喜産業は,やはり千代田区のアールインバーサテックが明治大学などと共同開発した業界初の塩ビと紙を分離する壁紙再生システムを担いで,その拡販と業績向上と資源循環型社会への貢献に燃えている。全国の壁紙生産は年間約21万トン,このうち塩ビ壁紙が90%以上を占める。塩ビ壁紙の多くは,塩ビ樹脂コンパウンドが75~80%,裏打ち用パルプが20~25%の割合で構成され,年間10万トン以上の塩ビ壁紙廃材が排出される。そのほとんどは再利用されていない。

 他社の再生システムは,破砕機を使うため粒径をそれほど細かくできず,塩ビと紙の分離が94%程度だ。だが本システムは,壁紙の塩ビ樹脂層を粒径約100~300μmの粒粉に,パルプ層を繊維長約2mmのファイバに微細化して,98%まで分離回収でき,良質の再生原料を生産する。生産現場・流通現場・廃材集積場・廃材処理場などの排出現場設置に適した,コンパクトなリサイクル・システムである。しかも三喜産業はシステム装置の提供だけでなく,リサイクル工程で生産される中間処理品を再生品として顧客から有価で買い取り,再資源化することまで請け負う。

「知の創造」にコンピュータの情報処理を応用する動きも登場

 前回紹介した大手SIerの大胆な新製品開発計画も,成功すればかなりの話題になると思われるが,日本のコンピュータ技術は,さらに先を睨(にら)む(以下,日本経済新聞2008年11月17日付より)。

 コンピュータ技術のロボットや医学への応用が期待されるが,なんと「知の創造」や「哲学の思考」にもコンピュータの情報処理が応用され,新サービス事業が期待されるという。コンピュータによる情報処理分野で,数学を応用して人間の感性や行動というあいまいな現象を解析したり,未来予測や知識を生み出したりする試みも始まっている。

 例えば,ケーブルテレビのジュピターテレコムと産業技術総合研究所は,来年始めにも利用者の好みや気分に合わせたテレビ番組をコンピュータが選んで表示するサービス実験を開始する。利用者の年齢・性別・帰宅時間・視聴履歴などのデータから,利用者のTPOに合った最適番組を探し,提供する。さらに産総研は,野球ファンの視線を追ってファンの喜ぶツボを科学的に分析し,野球を好きになっていく仕組みを解析しようとしている。観光地における観光客についても同じ原理で分析し,観光地の魅力を解析するという。

 東京大学 知の構造化センターは,哲学論文に登場する言葉をどんな文脈で使われるか割り出し,その言葉の位置関係を調べている。そこから,同じ言葉でも,社会情勢で概念が移り変わることをはじき出そうとしている。研究が進めば,コンピュータが哲学論文を書く時代が来るかもしれないとさえ言われる。

 ただし,こうした研究では人間の判断が入り込む余地を残しておかないと,人間性の喪失につながるおそれがあるのではないだろうか。テレビの最適番組を提供するにしても,野球の見どころを提供するにしても,あるいは観光地のスポットを知らせるにしても,「はい,どうぞ」ではなく,いくつかの選択肢を示すところまでコンピュータが関わり,最終的な選択は人間に任せるべきだろう。

 哲学論文も,人間の思考が関わらないと,全く魅力のない,無味乾燥な機械的な論文になるだろう。人間の心を打つ内容にはなるまい。

 …という解決しなければならない問題はあるにしても,コンピュータによる情報処理の技術は,日本の活性化に寄与するだろう。独創性に富んだ新技術と事業は,閉塞状態の中で少なくとも次への飛躍のバネになる。超元気な企業を見習って,ブレイクスルーを図ろう。ただし,一朝一夕でできるものではない。元気な企業には,いずれもトップの決断で長年資源を投入してきた雌伏の期間があった。