前回までは,ネットオークション事業者の負担する義務について,法律上明記されている義務及び裁判例で認められている義務等について一通り網羅的に解説してきました。

 今回はネットオークションの現場で問題となっている“第三者の権利侵害”に対し,ネットオークション事業者は,プロバイダとしてどのように対応すべきかという点を検討します。ネットオークション事業者がプロバイダとしての対応を迫られるのは,ネットオークション事業者が管理するWebサイトで,第三者の権利侵害が発生した場合ということになります。そこでまず,どのような場合に第三者の権利が侵害されたことになるのかを,典型的な事例である商標権や著作権の侵害で考えてみましょう。

典型的な権利侵害は,偽ブランド品の販売等に伴う商標権侵害

 ネットオークションにおいて第三者の権利侵害が問題となる典型的なケースに,出品者が有名ブランド品の海賊版を販売し,商標権者の標章を使用している場合があります。このような場合に対応する法律である商標法第2条3項2号及び8号には以下のように規定されています。

商標法第2条3項
この法律で標章について「使用」とは,次に掲げる行為をいう。
2号 商品又は,商品の包装に標章を付したものを譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,又は電気通信回線を通じて提供する行為
8号 商品若しくは役務に関する広告,価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し,若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為

 海賊版のブランド品を出品し,出品した商品の写真を掲載しているようなケースは,「商品又は,商品の包装に標章を付したものを」「譲渡若しくは引渡しのために展示し」(商標法第2条3項2号)たことになり,標章の使用となり得ます。同じく,Webサイトに海賊版ブランド品の広告が掲載されている場合,「商品若しくは役務に関する広告(略)を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(商標法第2条3項8号)に該当するものとして,標章の使用となる可能性があります。従って,このような標章の使用を反復継続している場合,商標権侵害となる場合があります。

譲渡告知行為のみでは著作権侵害とならない場合も

 次に,著作権の場合はどうでしょうか。ネットオークションにおいて第三者による著作権侵害が問題になるのは,出品者が海賊版を販売しているなどのケースです。このようなケースに対応する著作権法の規定には,著作権法第113条1項2号があります。

著作権法第113条1項
次に掲げる行為は,当該著作者人格権,著作権,出版権,実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。
二 著作者人格権,著作権,出版権又は著作隣接権を侵害する行為によつて作成された物(前号の輸入に係る物を含む。)を,情を知つて,頒布し,若しくは頒布の目的をもつて所持し,又は業として輸出し,若しくは業としての輸出の目的をもつて所持する行為
※「頒布」とは,有償であるか又は無償であるかを問わず,複製物を公衆に譲渡し,又は貸与することをいう(著作権法第2条1項19号)

 従って,出品者が海賊版の商品を,「情を知つて,頒布し,若しくは頒布の目的をもつて所持し」ていた場合には,著作権侵害とみなされる可能性があります。

 ここで,商標権の場合とは取り扱いが少し異なっていることに注意する必要があります。商標権の場合,海賊版を販売しようとすると,譲渡の申出(以下「譲渡告知行為」)をWebサイトで掲載すること自体で,商標権侵害となる場合が多いと言えます。これに対し,著作権の場合,譲渡告知行為をしただけでは,権利侵害とならない場合も相当あるということです。

 著作権侵害であるとみなされるのは,「情を知つて,頒布し,若しくは頒布の目的をもつて所持し」ていた場合です。ですから,譲渡告知行為の段階で海賊版の商品を所持している場合には著作権を侵害しているものとみなされますが,譲渡告知行為の段階で海賊版の商品を所持していなかった場合等は,著作権侵害とみなされない可能性があります。例えば,海賊版の商品を所持する法人と,海賊版の商品の譲渡告知行為をしている法人が異なる場合や,譲渡告知行為をした法人が,商品の発注を受けてから所持するに至る場合等は,著作権侵害とみなされない場合があります。

 このように,ネットオークションにおける譲渡告知行為については,著作権侵害とはならない可能性があります。このため,現行法では海賊版の流通を阻止する上で問題があるとの指摘を受けて,法改正の必要性が検討されているところです。