「日本で作れば、世界で売れると勘違いしていた」。

 2008年6月末、富士通社長に就任した野副州旦氏は海外拠点でのモノ作りに本格的に取り組む考えを示した。喫緊の問題であるグローバル化は、「サービスではなく、プロダクト・ベースでないと実現できない」からだ。

 野副氏はそれに向けて欧米拠点の再構築から着手した。富士通コンピュータ・システムズなど米国子会社3社を束ねる持ち株会社の設立、グローバルサービス体制の見直しなどを図った。次の段階はM&A(合併・買収)で、最も注目を集めたのが独シーメンスとの合弁会社、富士通シーメンス・コンピューターズの行く末である。

 同社は富士通製サーバーのなかで、IAサーバーPRIMERGYの設計、開発、製造を担当する。日本での販売シェアは小さいPRIMERGYだが、欧州ではシーメンスのブランド力、販売力もあって好調な売れ行きだという。野副氏は「欧州におけるソニーみたいな存在」と認識し実力を高く評価する。

 その富士通シーメンスを子会社化する案が急浮上した理由の一つは、「モノ作りでのグローバル化には舞台がいる」(野副氏)からだ。従業員1万数千人、売り上げ1兆円超に達する同社を子会社化することは、欧州市場における強力な足場を築くことになるのは間違いない。顧客との太いパイプもあるし、富士通にとって初の海外製造拠点ともなる。

グローバル展開の原資をどうするか

 富士通はこの10年間、売り上げが伸び悩んできた。2000年度の5兆5000億円弱が最高で、それ以降は5兆円前後をうろうろする。08年度も5兆円にとどまる。営業利益は01年度の赤字から07年度に2000億円と「普通の会社」(野副氏)になれたが、08年度は減益の見通しだ。

 問題はグローバル化の出遅れで、それには世界で通用するプロダクト作りが不可欠になる。もちろん富士通はこれまでもグローバル展開を志向してきたが、販路拡大の策を打てなかった。それに必要な原資がなかったからでもある。

 そこで野副氏は今、「(事業を)売って、(事業を)買う」作戦を練る。新聞報道などによれば、例えば富士通のHDD事業は800億円超の価値があり、魅力に感じている企業も出てきているという。減収減益のパソコンや携帯電話端末なども視野に入っているように思える。

 いずれにしろ、盤石な経営基盤があってこそグローバル展開が可能になる。収益に大きく貢献しているのは、システム構築やアウトソーシングなどのサービス事業だけだが、実はIAサーバーの顧客を獲得することは新しいサービスを生むことになる。ハード保守とOSなどのソフト保守である。

 ハード保守の収入はじわじわと下がっているが、実は高収益を確保できる事業なのである。しかも、Windowsベースのシステムには豊富なアプリケーションがあり、他社からのリプレースも容易になる。保守を広げられる可能性が大ということだ。

 昨今の金融危機の影響は計り知れないものがあり、富士通のグローバル戦略にも影響を及ぼすだろう。そうしたなか、08年11月4日に富士通シーメンスの100%子会社を正式発表した。強いプロダクトがなければ、サービス事業も成長しないという、野副氏の信念が買収を決断させた大きな理由だろう。

 ※本稿は「日経コンピュータ」2008年11月15日号「田中克己の眼」を再録したものです。