前回は,利用契約に基づいて信義則上,ネットオークション事業者が,「欠陥のないシステムを構築してサービスを提供すべき義務」を負担していることを説明しました。今回は,「欠陥のないシステムを構築してサービスを提供すべき義務」の具体的内容として,その有無を含めて裁判所が判断した以下の5つの義務について検討してみようと思います。

  • 利用者に対し,犯罪の手口を踏まえ,注意を喚起する義務
  • 信頼性評価システムを導入する義務
  • 出品者情報の提供・開示義務について
  • エスクローサービスを利用する義務
  • 補償制度を充実させる義務

利用者への注意喚起措置の義務は認める

 まず,注意喚起義務について検討してみます。名古屋地裁平成20年3月28日判決の事案では,利用者が詐欺被害に遭わないように注意喚起する義務を負担するかどうかについて以下のように判示し,この義務を肯定しています。

注意喚起について

 ネットオークション事業者には,上記認定のとおり,本件サービスを用いた詐欺等犯罪的行為が発生していた状況の下では,利用者が詐欺等の被害に遭わないように,犯罪的行為の内容・手口や件数等を踏まえ,利用者に対して,時宜に即して,相応の注意喚起の措置をとるべき義務があったというべきである。
※原文の被告をネットオークション事業者と表記。また,太字表記は筆者が指定したもの

 では,具体的に,どのような措置を講じる必要があるのでしょうか。この点について,同判決は以下のように指摘しています。

本件サービスを用いた詐欺被害と社会情勢

 警察庁によると,平成14年ころからインターネットオークションに関する犯罪被害に関する相談受理件数が増加し,遅くとも平成17年ころには,ネットオークションにおいて落札者が代金を支払ったにもかかわらず商品が届かないなどのトラブルが生じている旨の報道がされるようになっていた。
 平成14年ころから,ネットオークション事業者は,詐欺被害等,本件サービスを用いた利用者間のトラブルが生じていることから,トラブル事例等の紹介,トラブルを発生させた利用者の預貯金口座の情報,本件サービスを利用する際に注意すべきポイント等を掲載したページを設け,それらのページへのリンクを本件サービスのトップページに設定するなど,詐欺被害を含むトラブルの防止に向けた注意喚起を実施・拡充してきている。
 ネットオークション事業者は,平成16年7月1日から出品者の郵送住所確認を実施するなど,詐欺被害を含むトラブルの防止に向け,本件サービスの提供内容の見直しを行ってきている。
 (中略)
 上記認定によれば,平成12年から現在まで,被告は,利用者間のトラブル事例等を紹介するページを設けるなど,詐欺被害防止に向けた注意喚起を実施・拡充してきており,時宜に即して,相応の注意喚起措置をとっていたものと認めるのが相当である。
※太字表記は筆者が指定したもの

 原告となった利用者の主張によると,この事案では,平成12年4月2日から平成17年11月8日までの事件が扱われています。この判決だけでは,ネットオークション事業者が平成12年4月から平成13年にかけて,どのような対応をしていたのかが必ずしも明確には読み取れません。しかし少なくとも,インターネットオークションに関する犯罪被害に関する相談受理件数が増加してきた平成14年ころからは,以下のような対応をしていたと認定されています。

  1. トラブル事例等の紹介
  2. トラブルを発生させた利用者の預貯金口座の情報の掲載
  3. 本件サービスを利用する際に注意すべきポイント等を掲載したページを設け,それらのページへのリンクを本件サービスのトップページに設定

 本判決では,インターネットオークションをめぐる社会情勢を考慮した上で,ネットオークション事業者が義務を果たしていたと認定したものと評価することができます。

 ネットオークション事業者の立場からすると,上記のような対応を実施しなければならないのと同時に,上記のような対応をしていたということを後から裁判所で立証できるように,書類等を充分に管理しておく必要があります。上記の1ないし3に関する書類は,ネットオークション事業者が,一方的に利用者に提供する性質の書類になりますので,確定日付等により書類を準備していた時期を明確にしておくことが望ましいといえるでしょう。