2~3割の削減が相場だそうである。何のことかと言うと、ユーザー企業の来年度のIT予算のことだ。これは多くのユーザー企業のIT部門関係者による見立てだが、ITベンダーにとってはおそろしく厳しい数字だ。最近また「不採算プロジェクトの影響で・・・」なんて話も出てきており、SIなどの「ITサービス業」という産業が今のままで生き残れるか、正念場が近づいている。

 欧米の金融の大クラッシュと、それに伴う世界的な株価の急落・・・まあ、ここまで派手な負のサプライズがあると、みんな必要以上に身構える。だから最初は「100年に一度の大不況」なんて大げさなと思っていたが、実体経済がつるべ落としのように悪くなると、「100年に一度」もリアリティを増してくる。ユーザー企業全体のIT予算が2~3割縮小するのもあり得ない話ではない。

 現時点でIT投資にブレーキを踏みITコストの削減に乗り出しているのは、証券や自動車、通信、建設・不動産といったところ。これが来年度には多くの業種に広がる。なんせ中国なども含めた世界同時不況だから逃げ場がない。

 一方、ITベンダーはここ数年、技術者不足に悩まされていたため採用に力を入れてきた。まあ「3Kだ、5K、7Kだ」と言われて、思うように人材を獲得できなかったのが今となっては幸いだが、市場が急激にシュリンクすれば、ここ数年の技術者不足から、再び大量に技術者の余剰が生じることになる。そんな場合、個々のITベンダーはどんな行動に出るか。これまでの経験則から言うと・・・。

 自分が得意とする分野で案件が少なくなる(他も同じなのだが)。仕方がないので新規開拓として、今までほとんど手掛けたことのない分野の案件を取りにいく。新規分野なのでリスクは高く、本来なら安値を提示できないはずだが、戦略案件と称して安値で受注。当然のように要件定義も甘いまま(厳密に要件定義したら、とてもその料金では受注できない)、「なんとかなるさ」と開発に突入して・・・。

 結果は、あちらこちらで“経営を揺るがす”大失敗プロジェクトを作り出すことになる。しかも、スペシャル・プライスで受注したために、それがユーザー企業のSI料金などの相場観に良からぬ影響を与える。その結果、ユーザー企業による買い叩きが横行し、“不合理な”安値受注が“不条理な”安値相場を生み出すことになる。

 もう、さすがに、それはないだろうと思っていた。なんせITベンダーは、過去の痛い経験から学習し、赤字プロジェクトの撲滅に努めてきたし、ユーザー企業も「安物買いの銭失い」の意味を学んだはず。それに来年度からは、ITベンダーの会計処理に工事進行基準が適用され、要件定義が甘く原価総額を見積もれない案件は、受注が難しくなるはずだ。

 でも、この第2四半期決算の発表で、減益要因として「要件定義が甘い案件を取ってしまって」なんて説明が増えたのが気にかかる。それに工事進行基準も、赤字が予想される案件を取るなとまでは言っていない。要件定義が出来ていなくても、戦略案件と宣言して従来通りの会計処理を適用するという奥の手もある。ただ今回またもや、いつか来た道を突っ走ったら、ITサービス業は完全に終わってしまう。

 既存のSIビジネスは、これはもう原価構造を変えるしかない。ユーザー企業とは上流で徹底的に原価企画して、無用なものは作らない。作るとしてもオフショアリング、つまり海外の“ソフトウエア工場”を徹底活用する。さらにクラウド・コンピューティングの波に乗り、“知識集約産業+資本集約産業”化を推し進める。

 それとM&Aによって、ライバルを消去するか、自分が消去されるかしてプライム・ベンダーの数を減らし、ユーザー企業との力関係を変えなければいけない。大手ユーザー企業を相手にするプライム・ベンダーは、10社ぐらいがちょうどよいだろう。