「ブログがジャーナリズムを変える」「爆発するソーシャルメディア」の著者として知られる時事通信編集委員にしてブロガー湯川鶴章さんの新著「次世代マーケティングプラットフォーム」を読んで,「ネット社会は最後はそこに行き着くのか」と感無量でした。先日,湯川さんにお会いしましたが,「すべて書きつくして燃え尽きてしまった」と感想を漏らされてましたが,それも不思議ではありません。

 この本は広告業界やメディア業界,さらにはIT業界のみならず,多くの個人向け商品を製造販売する企業のマーケティング部門とシステム部門に,さらには中小企業にまで波紋を投げかける問題作なのです。

 詳しくは,この本に満載の,先進事例や米国におけるトップランナーのインタビューをぜひご一読ください。このコラムでは,湯川さんの問題提起をひもときながら,これからはマーケティングにまで参画を求められるであろう「ITスペシャリストの生きる道」を考えてみたいと思います。

もはや看過できないインターネット広告の明日

 この本の副題には「広告とマスメディアの地位を奪うもの」とあります。

 かつて,湯川さんは「ネットは新聞を殺すのか」というセンセーショナルな本を共著で出版されました。

 当時は,過激に見えたこの問題提起も,今では「新しい現実」となりつつあります。それは新聞の発行部数にだけ顕われているわけではありません。既に,大手広告代理店のメディア別の売上高シェアと伸び率を見れば,新聞,雑誌,テレビ,ラジオといった旧来の花形マスメディアの地位が凋落傾向にあることは明らかです。逆に,インターネット広告の存在感は増すばかりなのです。

 しかし,この本では,現時点で活用されているバナー広告や検索ワード広告,メルマガやブログといったインターネット広告だけを取り上げているわけでありません。本の帯には,「広告マーケットプレース・デジタルサイネージ・ウェブ解析とCRM etc. 広告を超えるテクノロジーの現在」とあります。

 これらは,まさに「次世代マーケティングプラットフォーム」と,湯川さんが呼ぶ新しい技術の一例なのです。

見る人見る時によって姿を変えるデジタルサイネージ

 例えば,新しい技術の1つとして挙げられているのはデジタルサイネージです。ここには,ITスペシャリストが関与すべきことが山ほどあるのです。

 それは,見る人や見る時によって表示画面や内容が変わるポスターや看板のようなものだと想像してください。現在,既にコンビニのレジに付けられている表示画面も,初歩的なデジタルサイネージといえましょう。しかし,単にTPOを考えて「この店に来る客層を考えたら,朝はこれ,昼はこれ」などと表示を切り替えるだけでは,次世代技術と呼べません。

 それでは,デジタルサイネージはどんな進化を遂げられるのでしょうか?

 例えば,あるスーパーマーケットに掲げられたデジタルサイネージは,電子の目を持っているとしましょう。最近のデジタルカメラに装備されている顔認識技術を応用して,目の前にお客さんが何人いるか,男性が何人で,女性が何人かなどをキャッチします。身長を基に,大人か子供かも判別します。どうやら,女性が2人と子供が4人いるとしましょう。

 そこでデジタルサイネージは考えます。もちろん,これまでITスペシャリストが苦心して構築してきたPOSシステムのデータベースや知識ベースがカギになります。

「このスーパーに午後3時頃やってくる女性と子供の組み合わせは,幼稚園のお迎えを終えて買い物に来た親子であろう。しかも,こちらのキッチン雑貨のコーナーにきたのであれば,今,この親子にお知らせすれば売れる商品はこれだ」

 このように販売コーナーや集客スポットに通りがかる人によって,見せ方を自在に変えるデジタルサイネージは,まさにWeb広告の進化系とも言えます。限られたスペースとコストで最大の効果を挙げる「未来の看板やポスター」,さらには「電子口上師」になる可能性を秘めています。