2008年11月21日現在,全国で立体映画『センター・オブ・ジ・アース』が公開中だ。その内,53館(12月2日までには57館に増加予定)において3D上映が行われている(2Dでは58館が上映)。興業成績も良く,米国では1億ドルを超え,国内でも10億円達成が予想されている。1スクリーン当たり動員数のアベレージが高く,入場料が少し高めに設定されていることもあり,上映館数の割りには非常に良い成績である。今後,3D上映館がさらに増えれば,立体映画が興行的にも無視できない存在になってくるだろう。

 ドリームワークス・アニメーションCEO(最高経営背委任者)のジェフリー・カッツェンバーグは,「立体映像はトーキー,カラーに続く第3の映像革命だ」と述べているが,こういった動きの起きた背景には「ホームシアターやネット配信などの急速な進歩が,映画館から観客の足をますます遠のかせるのでは」という,映画人たちの恐れがあった。そしてその対抗策として,2005年に開催された映画興行関係者向けのコンベンションShoWestのシンポジウムで,ジョージ・ルーカス,ロバート・ゼメキス,ジェームズ・キャメロン,ロバート・ロドリゲスら,進歩的な監督たちが「今こそハリウッドは立体映像に取り組む時だ」という呼びかけを行った。つまりこれをきっかけとして,今回の立体映画ブームが始まったのである。

 実は,立体映画ブームは過去にも数回起きているが,いずれも適切な上映技術を伴わなかったため,「目が疲れる」「ちゃんと立体視できない」などの不満が続出し,2~4年ほどで終息してしまった。しかし今回は,非常に見やすくて疲労度も大幅に少なくなったデジタル立体上映システム「Real D」が登場し,ルーカスらの主張は一気に具体性を帯びていった。同時に,立体映画は海賊版を作ることができない,という付随的な利点も普及の後押しをした。これは,立体上映中のスクリーンには二重になった映像が投影されているため,ビデオカメラで盗撮できないことによるものだ。

2009年からは立体映画の本数が一気に増える

 立体映画の普及は,最近まで「3D上映館の増加が先か,立体映像のコンテンツが先か」という足踏み状態が続いていた。せっかく数千万円もの費用をかけて最新のデジタル立体上映システムを導入しても,年に1~2本しかコンテンツがないのであれば,高価な設備を遊ばせておくことになってしまう。一方で製作者側も,上映館が少なくては高い興業成績が望めない。

 しかし2009年からは,一気に作品本数も増える。例えば,スラッシャー(殺人鬼)映画「血のバレンタイン」(1981年)のリメイク『ブラッディ・バレンタイン3D』,ディズニーのフルCGアニメ『ボルト』,ピクサー・アニメーション・スタジオの『UP』,ドリームワークス・アニメーションの『モンスターVSエイリアン』,ブルースカイ・スタジオの『アイス・エイジ3』,ジェームズ・キャメロン監督の『アバター(原題)』,ベルギーnWave社制作のフルCGアニメ『ナットのスペースアドベンチャー3D』,U2の南米ツアーを記録したコンサート映像『U2 3D』,ヘンリー・セリック監督の人形アニメ『コラライン(原題)』,ジャック・ロンドン原作の「野性の呼び声」の映画化した『Call of the Wild 3D』など,毎月1本以上のペースで公開が予定されている。

 さらに,2010年に公開を予定している作品でも,スティーブン・スピルバーグ監督の『タンタン』,ティム・バートン監督の『不思議の国のアリス』,スティーブン・ソダーバーグ監督の3Dロックオペラ『クレオパトラ(原題)』,「シュレック」シリーズの4作目『Shrek Goes Forth』,「トイ・ストーリー」シリーズの第3作『トイ・ストーリー3』などの話題作が控えており,このほかにも企画段階のものまで含めれば100本以上もの3D作品が進行中である。

 また3D上映館の数も,米国ではReal Dシステムを導入した劇場が1500スクリーンに達し,2010年までには全米5500スクリーンに増加すると見積もられている。これに加えて,Dolby 3D,XpanD,IMAX Digital,MI-2100といった新しい立体上映方式を採用する劇場も数百館規模で増えつつあり,全世界の多くのスクリーンで3D上映が可能になるだろう。

 こういった状況を受けて,立体映画関係のセミナー,シンポジウム,展示会などが相次いで開催されている。例えば映画の街ロサンゼルスでは,8月11~15日に「SIGGRAPH2008」の「Computer Animation Festival: Stereoscopic 3D」,9月29日~10月1日に「3D Biz-Ex」などが開かれ,12月1~2日にも「The 3-D Entertainment Summit」が行われる。またシンガポールでは,世界初の立体映画祭「3DX Film and Entertainment Technology Festival」が,11月19日~23日に開催されている。国内でも,「デジタルコンテンツEXPO2008」の「国際3DFair」が10月23~26日に日本科学未来館と東京国際交流館で行われたし,12月3~5日にはパシフィコ横浜で「立体Expo'08」も開かれる。いかに世の中が立体映像に期待と関心を寄せているかが分かるだろう。

 次回からは,新旧の情報を比較しつつ,立体映像の世界を紹介していく予定である。