日本IBMが2008年10月22日に発表した中型メインフレーム「IBM System z10 Business Class(以下z10BC)」には、いくつか注目すべき点があったと思う。例えば1台で26MIPSから2760MIPSまで処理能力を拡張できること、最小構成で2600万円という価格設定などである。

 世界のメインフレーム市場はIBMの独壇場になりつつある。米調査会社IDCによると、50万ドル以上のサーバー市場で米IBMのシェアは60%弱に達した。IBMは2008年第3四半期にメインフレーム売り上げを25%伸ばし、「日本を含めたすべての国で2ケタ成長を遂げた」(朝海孝システム製品事業システムz事業部長)という。

 逆に、50万ドル以上のサーバー市場で実績を持つUNIXベンダー、つまり米サン・マイクロシステムズや米HPなどはシェアを下げているという。25万ドル以上のサーバー市場でも、IBMは32~35%のでシェア1位を維持しているそうだ。

 日本市場には、富士通、NEC、日立製作所の国産3社もメインフレームを投入しているが、今や細々とした事業になり、売り上げは年率20%程度のペースで縮小し続けている。画期的な新製品も出ない状況だ。莫大な開発コストがかかるメインフレームより、UNIXサーバーやPCサーバーに重点を置いた戦略になっていることもある。

 こうした中で登場したz10BCは、次世代メインフレームの中型機という位置付けではあるが、最小26MIPSから最大2760MIPSまで、処理能力を拡張できる。IBMはこれを武器に、多量のPCサーバーの集約先として売り込む。もちろん他社製メインフレームやUNIXサーバーのリプレースにも期待をかける。

 そこで2600万円という最小構成価格になるわけだが、朝海氏はこの値付けについて「導入の敷居を下げた」と力説している。ところが、実はz10BCの米国での最小構成価格は約10万ドルであり、日本よりかなり安いのだ。

どうもすっきりしない価格戦略

 朝海氏は「価格の付け方は国により異なる。日本はサービスレベルが高い」と説明したが、どうも納得がいかない。穿(うが)った見方をすれば、日本市場にはz10BCと競合できる製品はないという読みがあるのではないか。

 価格戦略といえば、z10BCでは、ユーザーが必要とする処理能力に応じて料金を支払う「キャパシティ・オン・デマンド」方式を採用している。例えば、1CPU構成の契約で購入したユーザーが、一定期間だけ4CPUの能力を必要とする場合は、その期間だけ4CPUを使うといったことが可能になる。

 z10BCはユーザーが必要とするしないにかかわらず、一律、全CPU(1ユニットあたり10個)を搭載した状態で出荷する。処理量の変化に合わせて、動かすCPU数を増減できる仕組みを備えているからだ。同一モデル内であれば、ハード的な変更作業なしで、使うCPU数を増減できる。

 料金は使用量に応じて支払うのだが、前金で支払う方法と、使用した分を後払いする方法がある。例えば、年度末に予算が余っていたら前払いをしておき、次年度に使うといったことに利用できる。処理量が急に増えたときに前払いなら素早くできるという。後払いは支払い後に、CPUを増やせるので少し時間がかかってしまうそうだ。

 金額は前払いも後払いも同じだという。しかし、発表時点では契約や支払い方法に関するこれ以上の説明はなかった。ユーザー自身が使用量を予測して、契約を1CPUにしたらいいのか、4CPUにしたらいいのか、考えるということになるのだろうか。

 次世代メインフレームをうたうz10BCは、他にも様々な新技術を採用しており、戦略商品であることは間違いない。だからこそ余計に、料金体系の不明瞭は気になる。あるアナリストも「興味深いメインフレームだが、料金体系を明確にしなかったことは残念だ」と指摘していた。

 話は飛ぶが、メインフレーム全盛期には、「1MIPS、2000万円」と言われていた時代があった。富士通を始めとする“国産メインフレーマ”もそれに見合った価格設定で高収益を上げていた。今、彼らはIBMと戦える商品を持ち合わせていない。筆者としてはそこも残念である。