去る2008年10月25日,「地元民も知らないアートな墨田路地裏探訪サイクルツアー」を敢行しました。ブログやWeb発信でネット上でも影響力のあるクリエイターや,地域振興のカギを握る地元のキーマンなど総勢30人が参加して,わが地元,墨田区の路地裏を自転車で回ったのです。

 その結果,私たち地元民でも気づかなかった郷里の魅力が,スケッチや写真としてブログやネットに続々公開されることになりました。そして,地域振興のシンポジウムや展示会でも,素晴らしい作品群が発表,紹介されました。さらに懇親会を通じて,墨田区の魅力に初めて出会って感動したクリエイターやネットワーカーと,区内のキーマンが新たな親交を結ぶことになったのです。

見えない地域間競争=魅力的なブログ記事を集めた地域が勝つ

 これは,ひそかに始まった「目に見えない地域間競争」に向けたチャレンジです。今後数年間で,ネット上にどれだけ多くの魅力的な『ご当地ブログ』を,しかも多テーマかつ多言語で蓄積してマッピングできるかどうかが,集客や住民&産業集積の大きな分かれ目になると考えられます。

 わが墨田区も,2012年に世界一の東武タワーと葛飾北斎の美術館が完成して,国内外から観光客が殺到する可能性が高いのです。それを一見客のスポット観光だけで終わらせないためにも,感度の高いネットワーカーに,まずリピーターになってもらうことが大切です。

 そして,それぞれの視点でブログなどで情報発信してもらうとともに,区内企業の商品サービス開発にも参画してもらうことが求められます。情報感度の高い区外キーマンとの草の根交流こそが,墨田区の観光と産業の将来を握るカギなのです。

東京商工会議所IT分科会長,墨田ブランドアップ推進会議の悩み

 私も,墨田区に生まれ育って,今も本社を構える地元経営者の一人として,微力ながら地域振興のお役に立ってご恩返しをしたいと考えています。厄年を過ぎた頃から,ふるさとの良さがしみじみわかってきて,郷土愛も高まるばかりなのです。そこで,東京商工会議所IT分科会長,墨田ブランドアップ推進会議のメンバーとして,2012年の新タワー完成に向けて「街おこし」と「地域ブランド育成」の活動に協力しています。

 まずは,誰もが思いつくように「墨田区の知られざる魅力」を,地元の旦那衆や有力者の力でインターネットを活用して安価に情報発信することを試みました。しかし,この計画はなかなかうまく進みませんでした。それには,主に5つの理由がありました。

  1. 旦那衆の多くは,外国人や区外の粋人が好むディープな区内の路地裏よりも,向島や銀座など区内外の敷居の高い高級店に詳しかった。
  2. あるいは地元に詳しい人も,必ずしもインターネットに強くないので,ネットでの情報発信が自前で十分にできなかった。
  3. 心ある区役所や商工会議所の人が,実名で,愛する企業や店などを発信するには「公的部門は平等に情報発信すべし」という原則が障害になった。
  4. 個人のブログや,墨田区役所や商工会議所のホームページだけでは,海外や区外の人たちにリーチすることが難しかった。
  5. 区役所はじめ各公的団体やNPO(非営利組織)などが,縦割りでバラバラに活動することが多く,しがらみもあって連携が難しかった。

 すなわち,地元の力だけで自力で情報発信することは,構造的に大変難しいことを実感したのです。おそらく,これは墨田区だけではなく,全国の地域が情報発信をする際の共通課題でありましょう。