近年,インターネットオークション(以下,ネットオークション)の利用頻度が高まるにつれ,これをめぐる法的なトラブルも増加する傾向にあります。日本では2008年3月,Yahoo!オークションの詐欺被害者らが提訴した集団訴訟に対する判決が名古屋地裁で示されました。海外でも,海賊版の製品販売に関し,出品者のみならず,運営者にも法的な責任を認めるとした事件が発生しています。

 そこで今回からは数回にわたって,ネットオークション事業者の立場で,ネットオークション事業者が適法に事業活動を実施するための留意点について検討していきます。

 ネットオークション事業者が適法に事業を営むには,まず,オークションに関連する法律をおさえる必要があります。ネットオークション事業者が知っておかなければならない法律には民法のような一般法のほか,以下のような法律があります。

  1. 古物営業法
  2. プロバイダ責任制限法
  3. 知的財産権法(商標法,著作権法)
  4. 特定商取引法
  5. その他(電気通信事業法,刑法等)

オークション主催者の基本的な義務を規定する古物営業法

 これらのうちネットオークション事業者特有の義務が規定されているのは,古物営業法です。その他の法律は,ネットオークション・ビジネスだけでなく,ほかのビジネスでも参照される法律です。古物営業法の目的は,古物営業を規制して盗品等の売買の防止,速やかな発見等を図るという点にあります。そこで,各種の義務をネットオークション事業者に課し,違反した場合の刑罰まで規定しているのです(同法35条等)。しかし一般にはあまりなじみのない法律だとも思いますので,ここで少し解説しておきます。

第1条
 この法律は,盗品等売買の防止,速やかな発見等を図るため,古物営業に係る業務について必要な規制を行い,もって窃盗その他の犯罪の防止を図り,及びその被害の迅速な回復に資することを目的とする。

 ネットオークション事業は,第1条の「古物営業」に該当するため,この法律の適用を受けることになります。「古物営業」という用語の語感から,インターネット上で実施されるネットオークションがこれに該当すると言われても,あまりピンとこないかもしれません。しかし,同法は,第2条1項で「古物」を定義し,同法第2条3項および古物営業施行令第3条で,ネットオークション事業が「古物営業」のうち,「古物競りあっせん業」に該当することを明らかにしています。

第2条
1項 この法律において,「古物」とは,1.一度使用された物品(括弧書省略)若しくは2.使用されない物品で使用のために取引されたもの又は,これらの物品に幾分の手入れをしたものをいう。
2項 この法律において「古物営業」とは,次に掲げる営業をいう。
 (中略)
3号 古物の売買をしようとする者のあっせんを競りの方法(政令で定める電子情報処理組織を使用する競りの方法その他の政令で定めるものに限る。)により行う営業(前号に掲げるものを除く。以下「古物競りあっせん業」という。)

古物営業施行令
(電子情報処理組織及び競りの方法)
第3条 法第2条第2項第3号の政令で定める電子情報処理組織は,古物の売買をしようとする者の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下同じ。)と,その者から送信された古物に関する事項及びその買受けの申出に係る金額を電気通信回線に接続して行う自動公衆送信により公衆の閲覧に供して競りを行う機能を有する電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織とする。

 ネットオークションの典型的な利用方法は,ネットオークション事業者が運営する競りを行う機能を有するWebサイトに,出品者が使用済みの中古品等を出品し,購入希望者が落札するというものです。このような典型的なネットオークション事業の仕組みを前提に,古物営業法施行令第3条が規定されているため,通常のネットオークション事業は,古物営業法で定められた「古物競りあっせん業」に該当し,同法の規制を受けることになるのです。

 ネットオークション事業者に課せられる古物営業法上の義務としては以下のようなものがあります。

  1. 公安委員会に対する届出義務(同法10条の2)
  2. 相手方(古物売却のあっせん申込者)の真偽を確認するための措置をとる努力義務(同法21条の2,施行規則第19条の3第1項3号)
  3. あっせんの相手方が売却しようとする古物について,盗品の疑いがある場合の申告義務(同法21条の3)
  4. 書面又は電磁的記録の作成及び保存に関する努力義務(同法21条の4,施行規則第19条の3第2項)

権利侵害の申し出がなされた場合に参照するプロバイダ責任制限法

 ネットオークション事業者にはWebサイト運営者としての性格もありますので,事業者はプロバイダとしての責任も負担しなければなりません。問題となるのは,オークションサイトにおいて第三者の権利を侵害する商品が出品されるようなケースです。海賊版のブランド品がオークションで競りにかけられて第三者の商標権が侵害されるケースは,その典型的な事例といってよいでしょう。

 このように海賊版を出品する利用者が存在した場合,権利者である第三者は,通常,ネットオークション事業者に対し,送信防止措置等を要求することになります。ネットオークション事業者は,プロバイダ責任制限法による免責を受けるため,同法の要件を確認した上で,出品者による販売行為を停止させる等の措置を講じることになるでしょう。

インターネットでの商取引を規制する特定商取引法

 ネットオークション事業者が自ら出品者となってオークションサイトで商品を販売する場合,特定商取引法で規制の対象とされている「通信販売」に該当することになるでしょう。この場合,「通信販売についての広告」同法11条等の規制に服することになります。

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 今回は,法律で明記されている,インターネットオークションサイトの主催者の義務(責任)を中心に解説しました。しかし,ネットオークション事業者に課せられる義務は,法律で明記されているものだけとは限りません。次回は,オークションサイトを利用した詐欺行為によって損害を被った利用者がネットオークション事業者の責任を追及した,いわゆるYahoo!オークションの集団訴訟を題材に,ネットオークション事業者の義務を具体的に検討します。