IT業界にあって「人材育成」の悩みに直面しない経営者や管理職はいないでしょう。そんな中,無知識・未経験を99%採用し,そのうち異業種からの転身者,フリーター&ニートや障がい者を,3年で引く手あまたのITスペシャリストに育て上げる驚くべき会社があります。

 それが,創業後わずか8年あまりで1900名のスペシャリストを擁するITソリューション企業に成長した株式会社アイエスエフネットです。先日,同社の渡邉幸義社長にお会いして,その哲学と経営についてお話を伺う好機がありました。

 その大胆な発想は「考えすぎて動けない」さらには「会社に出てこれない」部下に悩む経営者や管理職には,大いに参考になるはずです。知らず知らずのうちに自分自身で作り上げた「常識の見えない壁」を打ち破るに十分でしょう。

5大採用:社会的弱者の中にいる「いい人」に着目

 ITスペシャリストの経営者や管理職の中は,高学歴の理系社員が,「なんでこんなに仕事ができないのか」とお嘆きの方も多いでしょう。しかし,下手に強く叱ってしまうと,明日から会社に出てこなくなるかもしれません。さらにはメンタルヘルスやパワーハラスメントの問題で責任を問われてしまっては,元も子もありません。自分自身の立場まで危うくなってしまいます。

 もっと,優秀で即戦力となる人物が欲しいというのが,イマドキの部下に悩む上司の本音でしょう。だからこそ,時間がかかって根気のいる人材育成を放棄して,中途採用に走るケースも多いようです。

 しかし,アイエスエフネットの渡邉社長は,99%「無知識・未経験」の人材を採用しています。そして業容を拡大しながら取引先の信頼を勝ち得ています。しかも,ただの「無知識・未経験者」ではありません。5大採用と称して,ニート&フリーター,障がい者,シニア,ワーキングプア,ひきこもりといった社会的弱者に白羽の矢を立てて育てているのです。

3年で一人前:派遣先の正社員に請われた元社員がOB会を結成

 同社は,無知識・未経験の社員,それも5大採用に該当するような社員を,3年で一人前にしてしまいます。企業に派遣しても恥ずかしくない,感謝される人財に育て上げるのです。そのために,社内の教育体制(スキル面,メンタル面,哲学など)に力を入れるとともに,社員の側も不断の努力を積み重ねています。

 無知識・未経験者を採用と聞くと,IT業界に詳しいITpro読者の中には,安い給与水準で派遣社員の頭数を集めているだけではと考える方もおられるでしょう。しかし,同社では定期昇給や最低給与保障のほか,資格取得による昇給や資格手当てなど,社員が自身の努力によって待遇を挙げていく制度を整えています。また,一定レベル以上の管理職になると年次で目標を設定し,自身の目標や課題点を上長と話し合って,それに基づいて年俸を決めていくことにしているそうです。

 こうした社員の努力を促す制度のおかげで,派遣先で信用を積み重ねて,請われて正社員として採用されるケースも多いそうです。

 この事実だけでも大いに感激するのですが,アイエスエフネットを卒業=派遣先企業に転職した元社員が,OB会を結成していると聞いて驚きました。熾烈な人材の奪い合いや,好条件を求めての転職も目立つ業界にあって,旅立つ社員も送り出す会社も「ずっとつながっている」のです。これだけでも,同社が営利企業でありながら,学校のような役割を果たしていることが分かります。

さらば地方からの一方通行:3年でふるさとに返して感謝の嵐

 渡邉社長は,静岡県沼津の出身ということもあり,地方の現実にも配慮しています。通常ならば,地方の優秀な人材を片道切符で東京につれてきて使うのが「IT業界の常識」でしょう。しかし,それではますます地方の過疎化や高齢化が進み,新しい産業も起こらないまま疲弊してしまいます。

 そこで,入社後3年間の研修は東京でOJTも兼ねて行い,一人前に育て上げてから地方に帰す方法を考えました。全国に営業所を作って,地方で採用し,東京などで鍛えた後で地方の雇用を生み出しているのです。渡邉社長は,このシステムを海外にまで広げようとしています。例えば,中国で採用した人財を,3年間日本で鍛えてから,また中国に返すという発想です。

 この方法は,本人さえ納得すれば,家族にも地元の自治体や政府にも喜ばれる,まさに「三方よし」の人材育成・還流システムではないでしょうか?