数年前からRFIDに興味をお持ちだった方は、Gen 2規格がブームになった際にウォルマート・ストアーズと並んで米国防総省が導入の旗振り役として語られていたことを記憶されていると思います。ウォルマート・ストアーズのRFIDプロジェクトの進ちょく状況は、良かれ悪しかれその後も報道の対象になり続けました。現在は同社の卸売り部門サムズ・クラブでの個品(販売単位)へのタグ付けが義務付けられたことが大きなニュースになっています。米国防総省でのGen 2規格製品の利用は、現在どのようになっているのでしょうか。

アメリカ国防総省におけるRFID利用の歴史


 米軍は昔からのRFID技術の先進ユーザーです。そもそもRFID技術のルーツは軍用機の敵味方識別装置という説もありますが、ロジスティクス活動に限っても早い時期から各種の大型輸送器材の管理をRFID技術を用いて行っていました。その中でも代表的なものがアクティブタグによる貨物コンテナの管理システムです。これはハードウエア・アプリケーション共にSavi Technologyが開発・納入しているもので、1990年から導入が始まりました。現在は世界全体で27万個に上るコンテナを433MHzタグを用いて管理・追跡しています。このシステムは軍用としては非常に成功したもので、米国の他にNATO各国、オーストラリア、ニュージーランドなどのほとんどの西側主要国で採用されています。

 米国防総省がGen 2技術によるケースやパレットの管理に興味を持っていることを公表したのは2003年の秋、ウォルマート・ストアーズと同じ時期のことです。その後、米国防総省による導入ポリシーが2004年に定められ、さらにサプライヤーとの具体的な契約内容が2005年の9月に確定しました(なお、議論の時点ではGen 2技術は標準化作業が終わっていなかったため、2006年10月までは古い規格のタグを取り付けてもよいことになっていた)。この契約によると、すべてのケースとパレット、そして単価が5000ドルを超える品物については個品にタグを取り付けることになっており、段階的に進めていく導入作業の最終的な完了日は2007年3月1日でした。対象となるサプライヤーの数は4万3000社に上り、非常に影響範囲が広いということで大きな話題となったのです。

最近の導入状況


 ですが、この導入状況はその後、米国のRFID業界紙にもぱったりと取り上げられなくなりました。どうなったのだろうと思っていたのですが、今年の夏に米国防総省内の監査部門が本件の調査レポートを作成したことが報道されました。その内容は、2007年12月から2008年1月の監査期間で、RFIDの利用が必要となる調達契約のうち10パーセントが関連する条項を含んでおらず、正しい契約が結ばれているものでも43パーセントがタグを取り付けていないというものでした。

 このニュースの後、私はシカゴで開催されたRFIDカンファレンス「EPC Connection」に参加しました。このカンファレンスでは業界ごとのRFIDの取り組みの現状が発表されることになっており、その中で米国防総省の取り組みが含まれていたのです。「ぜひ現状を確認したい!」と意気込んで参加したのですが、内容は全くの肩透かしでした。サプライヤーに対する導入の義務付けの現状については「義務付けの内容は導入当時と変わっていない」と返答。上記の監査レポートについては「大きな組織なのでなかなか徹底できない。努力はしています」と苦笑い。準備された発表として力を入れていたのは、海軍基地と補修工場の間での修理品のトラッキング。サプライヤーは関係しない完全なクローズド・ループ・アプリケーションです。確かにこの分野は現在のRFIDアプリケーションのトレンドの中心であり、民間企業でも多くの事例が発表されているのですが…。先のレポートと合わせ、「サプライヤーの皆さんが付けたGen 2タグは使ってませんよ」と言わんばかりの態度に聴衆席の雰囲気がかなり悪くなっていたのが印象的でした。