「情報系学部離れが起きている」。東京工科大学コンピュータサイエンス学部長の松永俊雄教授は嘆く。東京工科大学は2003年に既存学部を再編する形で、コンピュータサイエンス学部を設置した。だが最近、志願者数は毎年2割程度ずつ減り続けているという。

 なぜだろう。松永氏はその理由を3つ挙げる。1つ目は、そもそも工学部系全体の人気が下がっていること。これは「数学や理科、物理を学んできた先生が減り、小中高の生徒に理数系をきちんと教える先生が少なくなった」(松永氏)ことなどに起因するという。

 2つ目は、モノ作り教育にある。工作などの授業が削減される一方で、パソコンや携帯電話といった新しい道具が身の回りにあふれてきた。結果、自分で何かを作ることに興味が湧かなくなりつつある。

 しかも、こうした新しい道具を皆が持っている。目の前にある携帯電話やパソコンを日常的に使っている学生は、コンピュータをそこそこ使えると思い込み、大学でわざわざコンピュータを勉強する必要性を感じなくなっているという。

 だが松永氏は「これは大変な誤解だ」と言う。実際、身近にあるデジタル機器を使いこなしている学生でも、授業で2進法などの基礎的なコンピュータ科学の講義が始まると「そんなことまで勉強するのか、とびっくりする」(同)そうだ。1年で授業についていけなくなる学生もいるという。

 3つ目。これが最大の理由のように思えるのだが、「日本のコンピュータ産業がOSもハードも、自分達で開発しなくなった」(松永氏)ことだ。このため、技術開発が必要な領域が少なくなってきているという。技術開発にかかわれる職場も減り、当然就職先も減る。学生から見れば「コンピュータが花形産業だった時代は終わった」と映るというのだ。

就職案内ビデオの勘違い

 それでも、SEやプログラマなどIT関連の仕事に興味を持つ学生はいる。ところが、先輩達の話から、1週間も会社に泊まりこみ、家に帰れないという、きついイメージが埋め込まれる。そして決定打ともいえるのが、ソフト会社が制作した就職案内ビデオである。

 そこに登場する若手技術者の多くが「私は経済学部を卒業してSEになりました」「私は商学部を卒業してプログラマになりました」などと語り、ITの勉強は入社後でも充分間に合うかのように思わせる。これを見た情報系学部の学生は「そんなに簡単なことなのか」と感じる。同時に、「コンピュータだけを知っていてもだめで、業務の知識がないと通用しない」という思いばかりを強くする。こうした大学生の考え方は、徐々に高校生にも伝わっていくだろう。

 情報系学部離れは、こうした要因が重なって起きているようだ。日本に限らず、米国でも人気がなくなってきているという。

 松永氏はIT企業に2つのことを強く求める。「ソフト開発はインテリジェンスに加え、新しい世界を創造する“クリエーティブ”な力が求められる世界であることを学生に伝え」、「世界中に、日本のIT技術者が活躍できる場を探す」ことである。例えばいきいきとした職場を見せるのもよいだろう。IT産業を“夢”のある産業にすることである。