前々回,筆者は「SEマネジャの中には『SEは技術屋だ。俺たちは技術の仕事だけすればよい』と考えているように見える人が少なくないが,それではダメだ。だから,営業担当者や経営者から『SEはビジネスに無関心過ぎる。何を考えているのか分からない』と見られるんだ云々」と述べた。きっとSEマネジャの中には筆者の意見に賛同する人や異論がある人などいろんなSEマネジャがいるはずだ。それは筆者が考えるに,そのSEマネジャが「IT企業の中のSEのあり方やSEの仕事をどう考えるか」によると思う。そこで今回は「IT企業の中でのSEのあり方」について考えてみたいと思う。

 筆者は第一線のSEの任務は「会社のビジネス目標の達成に貢献し,顧客の満足度を向上する」ことであると考えている。そのためにSEという職種がある。これが筆者の考えるSEのあり方の原点である。もちろん,SEの仕事はIT企業の性格,ハードウエア・メーカー,ソフトウエア・メーカー,システム子会社,独立系SI企業,ソフト会社,元請け,下請けなどによって微妙に異なる。また,企業の中でもSE一人ひとりの仕事はアサインされた仕事によって異なる。だが,SEはIT技術の専門家として販売活動やシステム開発,保守活動,コンサルティングなどの仕事を通じてビジネスに貢献し,顧客に満足してもらうために仕事をするのには何ら変わりはない。そのためにIT企業はSEに給料を払っているのである。筆者はそう考えている。

 SEの多くの人は「会社にとってビジネスや顧客にご満足頂くことはに重要だ」ということは頭では分かっていると思う。事実,若いSE時代は誰しもそれを意識して仕事をしている。だが,会社で営業担当者がビジネス目標を持って仕事をし,そのためにSEが働くという構造の中で働いていると,だんだんと「ビジネスや顧客の満足は営業担当者や経営者の仕事だ。俺たちには直接関係ない。俺たちは技術の仕事をすればいいんだ」と考えたくなるのだと思う。

 筆者は某メーカーのSEだったが,SE時代の3~4年生のころから第一線で仕事をしていたとき「SEの仕事とは一体何だろうか?SEは技術だけの仕事をすればよいのだろうか?」と悩んだ。特に,営業担当者がSEの筆者に相談も無く顧客と勝手にいろんな約束をするのを見て「顧客のシステムをよく知っているのはSEなのに,なぜ俺に相談しないのか」と思ったものだ。そんなときには疎外感さえ感じた。

 また,営業部長が「この契約を頂ければSEを何人付けます」と言うのを見て,ビジネスとは言え将棋の駒のように扱われるのが面白くなかった。何人付けるという言葉には,身売りされるような響きがあり,抵抗があった。そんなつもりでSEになったのではないと思ったものだ。そして「営業担当者のSE軽視ははなはだしい。頭に来る。SEは営業担当者の言う通りにすればよいのか。いや違うはずだ」と葛藤していた。また,顧客の課長や担当者は営業担当者以上にSEを頼りにしていることも知った。それはSEがいないとシステム構築や保守などの仕事が上手く行かないし,技術について相談できる人がいなくなるからだろう云々と思った。

 一方「会社はSEに何を期待しているのだろうか」ともよく考えた。そして,先輩のSEや仲間ともよく討議した。親しい顧客の方にもSEのあり方について個人的に相談した。営業担当者ともよく話した。営業部長や営業担当者とお酒を飲んで,言いたいことを言ってけんかもした。営業の厳しさも知った。それらの経験を通じて考えた揚げ句,筆者は「IT企業の中のSEのあり方」について,こう考えるのが正しいようだと自分なりに結論付けた。当時,筆者が考えたSEのあり方の基本は,次の3点だった。

 (1)SEはITの専門家とは言え,ビジネスの世界の中でのSEである。IT企業は会社である以上,売り上げと利益を上げなければならない。いかにSEが技術だけの仕事をしても,会社が赤字になっては意味がない。SEも企業人である以上技術屋として会社の売り上げや利益に貢献すべきある。

 (2)SEは営業担当者とともにビジネスの車の両輪である。営業担当者だけでビジネスができればよいが,そうはいかない。IT企業のビジネスは顧客の業務を分析し,ITベースの新システムの提案・設計・開発・保守・運用などを行うことが不可欠だが,それは技術屋抜きにはできない。電気洗濯器や冷蔵庫を買って電源を入れれば動くのとは訳が違う。IT企業では営業担当者とSEが双方それぞれの役割を果たして初めてうまくいく。すなわち,営業担当者は会社の代表者であり,SEは技術の代表者である。SEはSEらしい仕事をすることが重要であり,システム開発・導入などはもちろんだが,営業担当者が「これをやりたい」と言っても技術的に間違っていればそれを指摘するのもまたSEの義務である。

 (3)顧客から受注したシステム開発・導入や保守をするのはSEしかいない。SEはそれをきちんと行い顧客に満足してもらうことが重要である。それがリピート・オーダーにつながり継続的にビジネスができ会社が発展する。