NECは2008年4月、同社の10年後の姿を描いたという「NECグループビジョン2017」を作り上げた。矢野薫代表取締役執行役員社長は「社内が超短期志向になり、成長の限界にぶつかっている」と指摘、長期ビジョンの策定は、この10年間5兆円前後で停滞していたNECの売上高(文末の表)を伸ばすためであると話す。

 「NECグループビジョン2017」は、NEC社内の約30人の若手チームが2007年7月から2008年3月の8カ月間に、社内の約7000人の意見を吸い上げて作り上げた。NECグループが目指す姿として「人と地球にやさしい情報社会をイノベーションで実現するグローバルリーディングカンパニー」を掲げ、その実現のためにNECが重視するバリュー(価値観)を定義にした。矢野氏はこの新しい「ビジョン」と「バリュー」をテコに社内風土を改革し、成長路線への転換を図る考えだ。

 「売上高5兆円を大きく超えるには、目線の上がる遠くに高い目標を作り、そこから『今何をするのか』を決める必要がある。だから10年先にした」と矢野氏は語る。これまでのNECは、毎年の目標値こそ作れるが、「その日暮らしになりがちで、思い切ったストラテジーが出てこない。実行力が伴わないこともあった」という。さらに「ソリューションプロバイダとして、ユーザーの経営課題を解決するための製品、サービスを提供してきたはずなのに、ユーザーを理解して提案する力がまだ足りない」との思いもあった。

 こうしたジレンマも、長期ビジョンの作成を急がせたのだろう。矢野氏は「NECグループビジョン2017で示した内容は、私が本当にやりたいことだ。中には『技術が進みすぎ、これ以上の新製品や新機能は要らない』という人もいるが、それは違う。今の製品やサービスは、機能数は豊富だが、使う人の立場から考えているかというとそうではない面もあり、人に優しいとは言えない。人に優しい、地球に優しいという観点では、ITが貢献できる領域はまだたくさんある」と、ビジョンの実現に意欲を燃やす。

 矢野氏は「ビジョンを達成するには、自分達が大切にする価値観、信じている価値観、NECの“DNA”をしっかり理解することが必要だ。バリューは、NECが自信を取り戻してもらうためのものだ」と語る。NECが今回定義したバリューは、行動の原動力になる「イノベーションへの情熱」、個人1人ひとりとしての「自助」、チームの一員としての「共創」、顧客に対しての「ベタープロダクツ・ベターサービス」の4つ。これはNECが過去から持つ“DNA”を4つの言葉で表現したものである。

売上高5兆円をゆうゆう突破したい

 伝統的なNECの“強さ”とは何か。社員にそれを知ってもらうために最近、5分間のビデオを作成した。社員の一体感を育む狙いもある。NECの強さを示す例として矢野氏は、IBM非互換のメインフレーム開発を挙げる。「IBMのOSやシステムで作るのはなく、自分達でOSもアプリケーションも作った。確かに非互換は苦しかったが、NECは雑草のごとくここまで生きてきた」。

 矢野氏は「私は、古い伝統を持つ旧世代の最後の人間なので、NECの伝統はどういうものかを何とか伝え、襷(たすき)を渡したい。だから今、残すべきものは残し、悪いものは片付けてきれいにしている」と構造改革に踏み込む決意を明かす。

 一方、中期経営計画の作成は遅れている。NECは2008年早々にも中期計画を発表するとみられていたが、矢野氏はビジョン作りを優先させたようだ。2008年2月の経営方針説明で「3年後にROE(自己資本利益率)10%超を達成するには、2千数百億円の営業利益が必要になる」と、わずかに数値目標に触れた程度である。

 今回の取材で、矢野氏は「5兆円をゆうゆう突破し、継続した成長を確実に成し遂げたい」と語った。公表している数値目標はないが、平均1ケタ台後半の成長を実現できれば、10年後には売上高10兆円になる。そんなことを考えているように見えた。その中身を早くみせてほしい。

表●NECの業績推移
&nbsp99年度2000年度2001年度2002年度2003年度2004年度2005年度2006年度2007年度2008年度計画
売上高4兆9914億円5兆4097億円5兆1010億円4兆6950億円4兆8605億円4兆8017億円4兆9297億円4兆6426億円4兆6172億円4兆8000億円
営業利益1104億円1851億円-555億円1208億円1366億円1419億円725億円700億円1568億円1700億円