「雑誌」の衰退には不吉な予感がする…,とは言い過ぎだろうか。いずれにしろ,実に寂しい気持ちに襲われる。雑誌衰退の主な原因の一つが,メディアの多様化,インターネットの普及と言われれば,一層悲しくなると同時に何とかならないのかと思う。

 2008年1月から7月にかけて,雑誌創刊件数が100件に対し休廃刊は107件に上った。2006年までは創刊数が休廃刊数を常に上回っていたが,2007年以降は休廃刊数が創刊数を抜いている。

 特に歴史ある有名雑誌の休刊が相次いでいる。

 主婦の友社の「主婦の友」が2008年6月に休刊,朝日新聞社のオピニオン誌「論座」も9月1日発売号で休刊,講談社の総合雑誌「現代」も12月1日発売号で休刊の予定という。集英社の映画雑誌「ROADSHOW」や小学館の「週刊ヤングサンデー」などの名物雑誌も休刊した。

 休刊の主な原因は,インターネットのあおりで雑誌の広告収入が減少,読者がネットなどを通じて簡単に情報を得られるようになったことなどだという(日本経済新聞2008年9月4日付)。販売面を見ても,総合雑誌の「現代」は,60年代に30万部だったが,じりじり部数を減らして近年は8万部程度に低迷している。ネットの影響もあるが,雑誌への読者の愛着が薄れたとも言われる(日本経済新聞2008年9月7日付)。

2001年調査に現れた雑誌衰退の兆候

 思い返すと,2001年頃まではWebサイトは情報を入手する手段の一つに過ぎず,既存メディアを代替し得ないという主張が主流だった。

 三和総合研究所,インターネットコム,インフォプラントがインターネット・ユーザー300人を対象に実施した2001年の調査結果を見ると,「定期的に講読する雑誌がある」と答えた人が70%に上っていた。消費生活の中で参考にする情報としてWebサイトを挙げる割合は,カタログや人的チャネルを挙げる割合に及ばなかった。この調査結果を見る限り,Webサイトは従来の情報源を上回る存在感を持つに至っていなかった。そして,調査結果を報じる記事は,雑誌出版社は流通媒体(紙,インターネット,CATV)を選択・相互利用しながら,よりユニークな視点で,より深い情報提供をしていくべきだとまとめられていた。

 しかし,当時でもWebサイトに対する期待感や優れた機能を認める傾向は,調査結果にはっきりと出ている。Webサイトがいずれ雑誌を凌駕するであろうという兆候は現れていた。

 上記の調査では,「基本的に同じ内容の場合,Webサイトのコンテンツが紙ベースの雑誌より安かったり,見やすかったりしたら,Webサイトの情報を購入(有料)するか」という問いに対して,引き続き紙ベースの雑誌を購入するとした回答が40%だったのに対し,60%が「Webサイトの情報を購入する」と答えている。また同じ調査でWebサイトの利用動向を見ると,「予告記事を見る」「紙面記事の要約を見る」は良しとしても,「紙面記事の詳細説明」「紙面と同様の記事」と,雑誌の存在を脅かしそうな意見が見られる。

雑誌とWebサイトは住み分けできるはず

 しかし,雑誌をそうそう簡単にあきらめていいのだろうか。

 「論座」の休刊に対して朝日新聞は,「言論発信機能に一定の役割は果たした」とコメントしているらしい(日本経済新聞2008年9月7日付)。だが,そんな割り切りでいいのだろうか。もっとも,最終号の誌面には「これからなのに」という本音がにじんでいるという(同上)。当然だろう。

 雑誌には雑誌の存在意味がある。興味深いことに,上記の調査で「雑誌を選んだ理由」という質問に対する答えが,雑誌の存在理由を如実に物語っている。

  • チェックなどを本の方が入れやすい
  • 大量の情報を手に入れたいと思った場合,雑誌の方が手軽だと思う
  • とっておける。手元に形が残るので
  • パソコンの画面上でまとまった文章は読みづらいから
  • やっぱり,紙を触ることで本を読んでいるという気持ちにひたれるから
  • 後でまた読みたくなった時や,ページを読みかえしたりするときに便利だから

 このほか「関心のある分野の情報を掘り下げるのに適したネットと異なり,読者が多様な記事を眼にすることで,知識,思考を深めるきっかけになることに総合雑誌の存在意義がある」(日本経済新聞2008年9月7日)という意見もある。要するに,Webサイトに比べて雑誌の方が「深い思索」ができる,「思考の発展」を期待できる,そして「創造的思考」ができると言えよう。

 だとすると,雑誌の衰退は,思索や創造的思考に負の影響を与えないかという心配に襲われる。当然のことながら,Webサイトにはデータの蓄積,検索性,双方向性などそれなりの優れた機能がある。雑誌とインターネットとは,住み分けて共存できるはずである。

 旧来の形に固執せず,読者のニーズ・興味を敏感に反映することで,雑誌が復活することを祈りたい。例えば,個々に力のある記事を横串で貫く,雑誌の「雑」を再構築する(日本経済新聞2008年9月7日付)。若い女性が同じようなテーマについて複数の雑誌をネットサーフィンならぬマガジンサーフィンしているというが,あるいは,そういう観点から,複数の雑誌や広告会社との連携で活路を見出せないか。

 さらに,流通面からの見直しも一策だ。雑誌のオンライン書店「Fujisan.co.jp」を運営する西野伸一郎氏が指摘するように,雑誌流通は取次店がガッチリ抑え,返品回避のために流通量を極限まで絞るので,読みたい雑誌が書店に置かれていないのが現実だ。つまり,従来の流通システムそのものが雑誌を売れなくしている。そこで、新しい販売チャネル・新しいビジネスモデルを考えれば,チャンスが生まれる可能性がある。例えば,パソコンサイトから検索・申し込み・決済・配送を行って需要を喚起する方法が考えられる。さらに,ケータイを使った宣伝や販売チャネルも効果が大いに期待できそうだ。

 かくの如き素人の意見は,関係者はとっくに検討しているのだろうが,「雑誌よ,頑張れ!」とエールを送りたい。活字文化の衰退は雑誌に止まらず,書籍全般についても言えることだ。極めて重要なことである。