東芝インフォメーションシステムズ(TSIS)の六串正昭社長は、2007年4月の就任以来、社員の意識改革に力を注いでいる。「東芝グループのビジネスにITで貢献できなければ、当社の存在意義はない」。そう発破をかけているという。

 TSISは2002年7月に、東芝のIT部門と東芝CAEシステムズ、東芝システム・クリエイタが合併して誕生した社員1300人超のITサービス会社。約640社ある東芝グループのIT部門にあたる立場である。

 グループ売上高10兆円を目指す東芝は、世界の競合に勝つため積極的にIT武装していく方針を掲げており、当然、TSISはその期待に応えなくてはならない。だが東芝グループ約650社に対するTSISのシェアは、アウトソーシングで50%弱、ITインフラ利用で60%程度であり、六串氏も決して満足してはいないという。

 コスト高など様々な理由があるだろう。だが、六串氏がそれ以上に問題視したのは社員の意識だ。例えば、ユーザー部門からの依頼を「そんなことはできません」と断ることがあった。「わざわざ新しいことに取り組まずとも、既存の仕事がたくさんある」という意識があり、新しいIT活用の提案もできていなかったようだ。

 せっかく品質管理の責任者がいても、トラブルのデータを集めるだけで、トラブルを早期に解決できる体制が敷かれていないといったこともあった。これではグループ内シェアの拡大など望めない。社員に意識改革を促しながら、こうした課題を1つずつ解決しているという。

 意識改革と並行して、データセンターの統合・集約化による効率化や、サービス・メニューの整備に着手、様々なグループ会社のシステムを取り込めるよう準備を進めているという。

毎年社員数人をインドに送り込む

 技術者の確保も、シェア拡大の必須条件である。国内の開発パートナー企業も活用しているが、2008年4月には人材会社を設立した。ここでは65歳まで働ける環境や在宅勤務を可能にする。さらに海外のIT企業も活用する。例えば運用業務の一部をインドのIT企業に外注している。オラクル製ERP(統合基幹業務システム)関連業務の一部をインフォシス テクノロジーズに、情報系システム関連業務の一部をタタコンサルタンシーサービシズに、製造系システム関連業務の一部をウィプロに頼んでいる。

 「メリットはコスト削減だけではない。ERPをグローバル展開する場合、インド企業のほうが日本企業よりスキルが高い」と六串氏は語る。オラクルなど、欧米の有力ITベンダーの多くは、インドのIT企業に製品開発の一部をアウトソーシングしている。インドのIT企業は、バージョン・アップの際の機能拡充など、かなり戦略性の高い業務を請け負っていることもあり、製品に対する知識が深いという。

 しかも、例えば欧州の拠点でERP導入プロジェクトを立ち上げ、それが終わったら米国、そしてカナダへと展開していくような場合にも、インドのIT企業の担当者は各拠点に移動しながら支援する体制をとってくれたという。

 六串氏は以前、東芝の社内カンパニーである東芝 デジタルメディアネットワーク社のCIO(最高情報責任者)を努めていた。その時インドのIT企業の仕事振りに接し、驚いたという。あるシステムの性能を上げるという仕事を発注したときのことだ。ドキュメントを渡したのだが、インドのIT企業の担当者はそれを一切見ずに、約1カ月でリバース・エンジニアリングをかけ、仕様書を作り上げてきたというのだ。数人でローテーションを組み、分からないことは、世界各地の社員から情報を得て短時間で解決したという。

 六串氏は毎年、TSISの技術者数人をインドに送り込んでいる。インドのIT企業の技術力や問題解決力の高さを認識させ、腕に磨きをかけてもらうためだ。