最近の海外のRFIDメディアではアパレル業界での個品へのタグ付け事例が注目されており、Gen2分野の新たなけん引役とみなされるようになっています。もちろんアパレルは以前からRFIDの有力な適用分野と見られており、マークス&スペンサーなどの大きな事例もありました。さらに最近では新しい技術や用途のいわば第2世代の事例が多数登場しているのです。各種のメディアに個別の事例が取り上げられているのですが、市場全体のトレンドを伝えるものとしてまずはRobert W. Bairdが発行するRFID Monthlyの記事を取り上げたいと思います。

 Robert W. Bairdは米国の金融サービス会社で、RFID MonthlyはRFID担当アナリストReik Read氏が編集し、毎月発行しているレポートです。投資額や売上金額、役員人事などのアナリスト・レポートらしい内容はもとより、新製品情報や業界動向などがバランスよくコンパクトにまとまっています。メールで購読を登録すれば(rread@rwbaird.com)無料で配信を受けられますので、RFID業界の海外の動向に興味がある方にはぜひともご一読をお勧めします。

 そのRFID Monthlyの2008年8月号にアパレル業界でのRFID利用の要約記事が掲載されています。その記事では、現時点でタグを数十万個用いるパイロットが多数実施されており、2009年にかけて欧州とアジアを中心にパイロットは拡大するだろうとの見通しが示されています。

 これらのパイロットにおいてRFID導入の主要な目的は、店頭での在庫切れ防止による販売機会ロスの防止です。従来の事例では棚卸しや入荷検品の省力化を狙ったものが多かったので、方向性が変わったと言えるでしょう。販売機会のロスを目的とするRFIDではタグの読み取りは主に店内になります。このため、タグの取り付けは必ずしも工場で行う必要は無く、小売側の物流センター、場合によっては店舗のバックヤードで行ってさえ利益が出ます。結果を公表しているいくつかのパイロットによると、在庫切れの防止により3パーセントから20パーセントの売り上げ向上になったとのことです。

 技術的な特徴はどうなっているのでしょうか。従来の事例では、読み取り距離は短いが動作が確実な13.56MHz帯製品と長距離から読めるがチューニングが難しいGen2製品、どちらを使ったものも存在していました。ですが、現在実施されているパイロットでは利用技術はほぼGen2製品に集約されています。さらに、万引き防止システム(EAS)との統合も有力ベンダーが精力的に進めています。

 RFID Monthlyの記事以外にも、アパレル業界においてRFIDの新たな活用方法を目にする機会がありました。ニューヨークで開催されたアパレル業界向けのRFIDカンファレンス「RFID in FASHION」に参加した際に、個々のパイロット・導入事例について具体的な内容を聞くことができました。特に興味深かったのが、日用雑貨のパレット・ケース単位でのタグ付けとの利用シナリオの違いです。なるほど、と私が感じた説明には以下のようなものがありました。

  • 自社内での利用で利益を出すことが可能なためメーカーとの複雑な交渉なしで導入を進められる
  • アパレル商品は単価が高くタグの価格の負担力がある
  • 商品に値札や万引き防止タグを取り付けるという業務プロセスが確立しており、それをRFIDタグに入れ替えることは業務の変更につながらない
  • 販売機会を失った商品は季節・流行の変化ですぐにバーゲン品扱いとなるので、全体の在庫を増やさずに店頭在庫切れを防ぐことの利益は非常に大きい