「ITサービス業の経営統合は製造業や金融業とは異なる。百貨店など老舗の小売業に近い」。2008年4月にTISとインテックホールディングスを経営統合して誕生したITホールディングス(ITHD)。岡本晋社長は、両社のブランドを残した理由について、このように語った。
岡本氏は、ITサービス業界の再編・淘汰をいち早く予想した1人だ。1社ずつのシステムを個別に開発する“個社システム”の国内需要が減り市場規模が縮小すれば、パイを奪い合う時代になる。そこでITサービス企業が生き残り、成長するためには経営統合が欠かせないという。「規模拡大によって、開発要員などの動員力やリスクへの耐久力、商品提供力が増すとともに、顧客企業からの信頼や安心感も高まる」(岡本氏)からだ。
ITHDは両社のブランドを残す緩やかな経営統合を選んだ。老舗百貨店と言えば、経営統合後もそれぞれのブランドを生かした活動を展開している大丸と松坂屋の例がある。松坂屋も大丸も、「ファン」と呼べるほどの顧客層を持つブランド力を武器としてきた企業だ。
百貨店ほど顧客数は多くないものの、TISとインテックもそれぞれが特定市場でブランドを確立しているという自負の下、無理をして合併する必要はないという考えに至ったようだ。
「1+1=3になるとは思っていない」
緩やかな経営統合を選択すれば、グループ内に様々な事業会社を抱えることになる。上流から運用まで一括で請け負える会社、上流工程に特化した会社、業種を絞り込んだ会社など、様々な要望に応えられる企業集団を形成していくという。構成企業は規模も様々で、伸びる会社も伸びない会社もあるだろうが、グループ全体の売上高は3000億円を超す規模になる。
この形態だと、例えば製造業のように、最新工場に生産を集約するとか、調達力を高めるといった、直接的なスケールメリットはそれほど期待できない。実際、岡本氏は「1+1=3になるとは思っていない。2.1とか2.2になればよい」と話す。
成長の芽は現場にある。経営統合後、TISのユーザーに対して、インテックがソリューションを共同提案する案件や、その逆の案件が増えてきたという。こうした新しい商談が次の成長につながるという目論見なのである。企業集団に特色あるグループ会社が多いほど、成長の芽はたくさん生えるだろう。だから同社は今後もM&Aを推進していくという。
こうした緩やかな経営統合による企業集団を形成する大手企業は少なくない。グループ内に建築・施工会社、化学会社、電子部品会社などを抱える持ち株会社などもある。これらの事業の横の関連性は薄いが、ブランドを共通化しており、グループ全体で1兆円企業になっている。
ITHDの場合、この例よりは横の連携が強い企業集団になる。共通ブランド「ITHD」の下に、グループ全体の売上高、利益、ROE(株主資本利益率)などの数値目標を持ち株会社が作成。それを元に、事業会社がそれぞれの目標達成に向けた具体的な施策を練り、実行していく。中期的な売上高目標は5000億円に設定した。まずは、2007年度の売上高3224億円、営業利益199億円という実績を、2008年度に売上高3400億円、営業利益220億円にする計画だ。