日本企業を取り巻く経営環境は,厳しくなる一方です。海外に市場を持つグローバル企業も,経営戦略を見直すべき時期にあることは周知の通りです。そして,企業経営が革新を求められている中,IT部門の人材育成が見直されています。この分野において,研究開発,製造,営業など他の部門に比べて,IT部門が遅れをとってよいはずがありません。

IT部門のメンバーに見られる仕事のアンバランス

 多くの企業では,IT部門の責任者(実質的な責任者を含む)や少数の優秀な技術者が驚異的な業務をこなすことで,IT部門を維持しているケースが多いと聞きます。一方で,狭い自分の仕事の範囲を要領よくこなしているだけのメンバーも同じIT部門にいるといいます。

 このような,IT部門に見られるメンバー間の仕事の量と質のアンバランスを見ると,(そのほかにいくつもの課題があるわけですが)経営に貢献する成果を出せるIT部門であるためには,ITのいわゆる技術的な側面だけでなく,「人にかかわる能力」の分野で力量が問われているのではないかと思います。

 この「人にかかわる能力」分野の強化を考えてみると,IT組織全体の能力をどうするのかという課題になります。決してCIO一人で解決できることではありません。

ITSSやUISSで,今最も必要な“ミドルマネジャ”は育たない

 IT部門の人材育成については,ITSS(ITスキル標準)やUISS(情報システムユーザースキル標準)が指針を与えてくれるものとして有益であることは,すでに知られています。ところが,これらのガイドラインは,その名の通り,あくまで「スキルのスタンダード(標準)」です。「人を育てる」という視点よりも,IT人材の知識や技術,スキルについて,そのレベルを示すという側面がどうしても強調されています。

 したがって,「IT部門の組織能力を上げていこう」という視点から見ると,これらのガイドラインだけでは不十分です。組織やチーム運営などでリーダーシップを発揮できる人材の育成が進まないのは,当然のことと言えるのではないでしょうか。

 特に今必要なのは,CIOを支え,CIOと一緒になってIT部門を率いるマネジメント・チームを構成でき,他のメンバーに対してリーダーとなれる人材です。本コラムでは,これらの人材像を「ミドルマネジャ」と呼ぶことにします。

 下の図は,IT部門におけるミドルマネジャの育成の根拠となる要求事項と,IT部門の革新のための組織能力の向上について検討したものです。

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 IT部門のミドルマネジャの能力強化に対する主な要求は以下の3点です。

(1)経営革新の要求として
 本業の革新要求,経営戦略強化の要求,全社業務効率の向上,IT構想実現力の強化などが要求されています。

(2)コンプライアンス要求として
 内部統制(財務統制,業務統制,IT全般統制など),環境対応策の強化,PL(製造物責任法)対策,情報セキュリティ対策の強化などが要求されています。

(3)IT部門の組織力強化の要求として
 プロジェクト・チームでの仕事の成果をきちんと出せること,IT内部統制や業務管理機能を強化すること,継続的な学習と改善を維持することなどが要求されています。