全日空の社長が1カ月分の報酬の50%を返上するそうだ。そのほか幹部10人を減俸処分。いったい、どんなとんでもない不祥事を引き起こしたのかと思ったら、9月14日のシステム・トラブルで多くの便が欠航したことに責任を取るとのこと。えっ、そんなことで・・・。「システム・トラブルが二度目なので重く受け止める」とのことだが、何か違和感がある。

 確かに昨年に続き二度目で、影響も広範に及んだのから、たいしたことでないとは言わない。トラブルの原因も、チェックイン端末を管理するサーバーの設定ミスだそうで、かなりトホホな話。いわゆる“うっかりミス”というやつだ。だけど、「またもや社会に大迷惑をかけたシステム・トラブル」みたいに騒ぎ立てられる話なのかと思ってしまう。

 このように書くと、間違いなく怒られるだろう。「ITは今や重要な社会インフラだ。実際、二度のトラブルで多くの人が迷惑をこうむった。いい加減なこと言うのではない!」。もちろん、ITも航空などの交通機関も重要な社会インフラであるというのは、おっしゃる通り。ただ、似たようなトラブルは、鉄道なんかで日常茶飯事に発生しているんだけどね。

 つい先日も、そんなトラブルに巻き込まれた。朝、仕事の都合で早めに最寄り駅に向かったら、電車が動かない。なんでも電車が車庫から出られなくなったらしい。結局、大幅な間引き運転となり、超過密の車内での苦行に耐えた末、職場にたどり着いたが、朝一番で予定していた仕事はおじゃん。おそらく同じように、多くの人が商談などのアポの変更に迫られ、大迷惑を被ったことだろう。

 もちろん、このトラブルの原因はコンピュータ・システムではない。単純な架線トラブル、つまり電気系統のトラブルだ。ただ程度の差はあれ、利用者が被る迷惑は、ANAの飛行機が飛ばないことと本質的に違いはない。しかも、この手の鉄道関係のトラブルは、それこそ日常茶飯事のように発生する。そう言えば、終電近くで電車が止まり、深夜に1時間以上も駅のホームに多数の利用者とともに放置されたこともあったっけ。

 で、鉄道会社の経営トップが頻発する架線トラブルや車両トラブルによる運休や遅延の責任を取って、自らを減俸処分にしたなどという話は寡聞にして知らない。せいぜい翌日の車内放送で、車掌によるお詫びのメッセージが流れるだけである。もちろん利用者も了解しているところがあって、そうしたトラブルを前提に利用している。逆に、完璧な運行のための無駄な投資で、運賃を値上げされることの方がたまらない。完璧を求めるのは安全面だけである。

 さて、今回の全日空のシステム・トラブルだが、前回のトラブルから1年4カ月ぶりのことだから日常茶飯事ではない。ただ予約システムの障害なんで、影響はANA国内線の全便に及んでしまった。それでも鉄道の圧倒的輸送力に比べると、航空機の輸送力なんてミクロに等しいから、鉄道の局所的な架線トラブルの方が、影響を受ける人ははるかに多かったりする。

 そんなわけで、今回の全日空のシステム・トラブルの社会的迷惑度は、多く見積もっても鉄道の架線トラブル程度にすぎない。むしろ問題は、システム・トラブルの影響が前回同様、長く続いたことだろう。前回のトラブルの時、「ANAのシステムトラブルに改めて思うこと」で書いたが、システムが落ちることを前提に、人手でも何でもいいから、運行への影響を極小化するための仕組みやノウハウを持っていなくてはならない。

 もちろん全日空も前回のトラブルを教訓に、そうしたリカバリー体制を作ったと聞くが、うまく機能しなかったようだ。今後は、システムのバグや運用のミスを少なくする取り組みと並行して、こうしたシステム・トラブルが“日常的”に発生することを前提に、リカバリー体制の精緻化に努めていくしかないだろう。

 だから、この手のトラブルを、社長が減俸になるような「あってはならない」ことにしてしまうのは少し疑問だ。システムの現場がトラブルに直面した際に顔面蒼白になるようでは、同じことがまた繰り返される気がする。