社員数が100名を越えたころから,サイボウズの企業文化が変化していきました。それは,「個人主義」から「集団主義」への移行と呼ぶべき変化です。

 一獲千金を狙ったベンチャー志向社員や,個人のスキルを重んじる個人主義社員は去り,協調しながら組織に貢献するチームワーク社員が残りました。なぜそうなったのか,理由をうまく説明することはできませんが,「そういう流れだった」のだろうと思います。様々なところでその変化を見ることになりました。

 例えば,開発プロセスです。それまでソフトウエア製品は,特定の個人が個人の意思によって開発を進めている状態でした。誰かに引き継ぐことを意識してドキュメントを整備することもなく,開発ノウハウは個人に帰属。そうすると,単純に「作る」ことに集中できますので,製品はスピーディに改善されます。その反面,製品ごとにユーザーインタフェースはバラバラだし,製品間で機能が連携することもない。お客様にとっては不便なこともありました。

 「これじゃ,いかんよね」と思う人が増えてきたのでしょうか。徐々に,チーム開発を前提としたルールが作られていきました。まず,製品開発に携わるメンバーは全員,「開発本部」という組織に集約して一本化。その組織のトップである開発本部長の承諾なくして,現場で自由にモノづくりができないようにしました。こうすることで,各製品の仕様を合わせる動きが強まりました。また,注力すべき戦略プロジェクトがあるときには,他の製品を開発しているチームからもメンバーを招集して割り当て,企業全体で効率的に開発できるようになりました。

組織を強くすることの重要性

 チーム開発を前提にすると,様々なドキュメントを作成したり,ソースコードを相互チェックしたりする工数が必要になります。当初は工数の増加に戸惑うところもありましたが,年を追うごとに定着していきました。

 もちろん全員がこの変化に適応できたわけではありません。辞めていく社員もいましたし,いまだに不満の声を聞くこともあります。しかしながら,「製品は個人のものではない。組織を作り,協力して開発していくのだ」という考え方は,既にサイボウズ社内の共通認識として浸透していると感じています。

 私自身の経歴を振り返ってみますと,最初に入社した大企業に馴染むことができず,たった3人でベンチャー企業を立ち上げているくらいですから,相当な「個人主義」社員だったと思います。自分のスキルを高め,個人の力によって全体の業績を伸ばしていくことに興味が集中し,組織のことを考える時間は最小限でした。

 しかし,人は変わるものです。サイボウズで起こった変化を間近で見ていく中で,メンバーが一致団結し,個人ではなし得なかった大きな成果を作り出す奇跡の瞬間に何度も立ち会うことができました。自分の視野の狭さを痛感し,組織を強くすることの重要性に気づかされました。

 この一連の変化の過程では,多くの人と膨大な数の「会話」をしてきました。あるときは一対一の口頭で,あるときは会議の場で激しく議論し,あるときはグループウエア上でスレッドを立てて,あるときはドキュメントを作成して社員に説明。それらの会話の多くは,今でもグループウエアの中に,証拠のように保存されています。

 グループウエアを作る会社が,チームワークに目覚めたことで,新しいノウハウを獲得しました。このノウハウをグループウエア製品に盛り込み,より多くの企業で同様の進化を引き起こせるようサポートしていきたい。今では,それが私たちの使命ではないかと考えています。