システム開発の着手間際になって、ユーザー都合でプロジェクトが延期。ITベンダーにとっては真っ青な事態だが、不思議なことにこのトラブルだけはユーザー企業はどうもお気楽。というか、トラブルとの認識すらない人もいたりする。少し前に会ったシステム部長も「仕方ないよ」と平然と言っていた。IT投資の凍結話がちらほら聞こえるようになった今、着手延期のリスクには要注意かもしれない。

 開発着手の直前の延期というのは、大型案件なら即、ITベンダーの経営問題だ。多数の技術者をプロジェクトにアサインしたのに、延期になれば簡単に数千万円の売上が吹き飛ぶ。技術者の人件費は固定費だから、技術者が塩漬けになりワークできないとなると、ITベンダーにとってはその分が損害となる。

 アサインした技術者をすぐにリリースし、別の案件に参画させられるなら損害は軽微だが、それもまた難しい。いったんリリースしてしまえば、数カ月遅れで開発着手となっても、同じメンバーで開発チームを再結成するのは不可能だ。要件定義を行ったようなコアメンバーがいなくなればプロジェクトの失敗リスクが極大化するため、ITベンダーは進退窮まってしまう・・・。

 こうした事態は、ユーザー企業にとっても非常にまずいことだと思うのだが、どうやらそこまで想像力が働かないらしい。着手予定の1週間前に延期を通告という、ひどい話もちょくちょく聞く。もっとひどいのになると、「3カ月の短期プロジェクトなので、集められるだけ技術者を集めてくれ」と依頼しておきながら、直前で延期という話もあった。

 延期の理由も様々で、投資全般の見直しという一応もっともらしい話から、担当者が交代したためというレベルの低い話まである。利用部門がIT予算を握っている場合、特にタチが悪い。システム開発の実情を知らない利用部門がシステム部門にプロジェクトの延期を通知、システム部門は「自分たちの責任じゃないから」と、お気楽モードでITベンダーに延期を通告----そんなパターンが多いようだ。

 ITベンダーとしては、これはもう抗議するしかない。というか約束違反として、ユーザー企業にペナルティを課すべき事態だ。だが哀しいかな、これまで正式契約でもないのに、ユーザー企業の依頼で開発に先行着手なんてことをしていたから、開発着手の時期を巡る約束・契約の類は極めて曖昧。仕方がないのでユーザー企業と善後策を協議、結局ユーザー企業の意向をのまざるを得ない状況になる。

 しかもITベンダーの中には交渉下手な企業が多い。「開発体制を維持するために、せめてコアメンバーだけでも別の仕事を頂けませんか」なんて“お願い”してしまうものだから、被害者は自分たちなのに立場がさらに弱くなる。「仕方がないなぁ。じゃあ、こっちのプロジェクトに入っていてよ」と、完全に勘違いモードのユーザー企業からお情けを受ける始末だ。

 最近、要件定義の厳密化などITベンダーはユーザー企業との関係を正規化しようと、様々な試みを行っている。しかし、この「開発着手の直前延期」があまり問題視されないのは何故か。着手延期による損害は、ヘタな問題プロジェクトよりはるかに重大事になる。景気が悪くなって再びこの手の話が多発しそうな昨今、「絶対にダメ」とユーザー企業を躾ける必要があると思うのだが、いかがだろうか。