グループウエアを活用して,いくらTO DO LISTを共有したところで,若い部下たちが「すぐやる」実行力を持っていなければ何も始まりません。かと言って,厳しく叱咤激励すると,入社3カ月で会社を辞めてしまうかもしれません。昨今は,当たり前のことを当たり前にお願いしても,動けない若い社員が増えていると聞きます。そのおかげで,管理職のマネジメント能力まで問われることにもなりかねないのです。

 私自身も「すぐやる」ことが苦手な若い人たちに,明治大学と企業経営の現場で対峙しています。しかし,ちょっとした「助言」や「きっかけ」で「行動力が見違える若者たち」も目の当たりにしました。

 こうした経験を踏まえて,このたび「考えすぎて動けない人のための 「すぐやる!」技術」という本を上梓しました(発行:日本実業出版社 定価:1260円)。この本は,「すぐやる」ことが苦手な若い社員や,そんな部下に悩む管理職や経営者に読んでいただきたいヒント集です。

急増する「動けない人」に贈る成長のヒント

 親しい経営者や管理職,大学教授などに聞くたびに,「すぐやる」ことができない20代,30代が急増していると嘆く声を耳にします。これは,インターネットやケータイメールなどによる情報量の増大と決して無縁ではないでしょう。ネットで検索すれば,ネガティブな情報,誤った情報,悪意のある情報などが「嫌というほど」目に飛び込んできます。その結果,失敗の可能性があることや効率が悪いことを嫌って,若い人たちが,なかなか動き出せなくなるのも無理ありません。

 私はかつて,日経パソコンに「ググってウィキして会いに行け」というコラムを寄稿しました。これは,ネットで検索しただけで「わかったような気になる若者たち」に警鐘を鳴らした提言です。現場に行って自分の目で確かめ,当事者に会って話を聞くことで,初めて「生きた情報」が得られる。そんな当たり前のことさえも忘れられかけています。これでは,五感を働かせて直感的に行動したり,情熱的な先駆者に感化されて動き出す経験も味わう機会が少ないでしょう。

 「データがないと動けない」
 「常識や権威に流される」
 「プレッシャーや期限を理由に逃げる」

 そして,成長のチャンスを逃す…,という悪循環に陥っている人が実に多いように見えます。本書は,そんな「なかなか動けない人」に贈る成長のヒント集なのです。

ビビリな明大生が1年で見違えたアドバイス集

 当コラムでもご案内の通り,3年前から私は明治大学商学部の講師として「最近の若い社員予備軍」と接する好機をいただきました。そして,若い学生たちの元気のなさに加えて,「すぐやる」能力の欠如に愕然(がくぜん)としました。これでは,就職後,部下として迎える管理職の苦労も想像に難くありません。

 しかし,1年間の講義を通じて,ちょっとした「心構え」を教え,いくつかの「きっかけ」を与えれば「見違える学生」が現われることも体感しました。つまり,行動の停滞は学生たちの資質の問題ではなく,考え過ぎて「見る前に跳ぶ」体験が不足していることではないかと気づきました。

 とは言え,半ばアドリブで学生たちにアドバイスしてきた初歩的な内容を本にすることなど,私にはとても考えが及びませんでした。ところが,私の講義を1年間聴講してくれた編集者が,「今,若い人が必要としているのは『すぐやる技術』である」と,執筆を強く勧めてくれたのです。

 実は,その若い編集者も「すぐやる」ことが苦手だったと告白してくれました。自分自身も講義を聞いて変わることができたのだから,本にする価値があると明言されたのです。