これまで第一線で働くSEマネジャとSEのあり方について,筆者の考えをいろいろと主唱してきた。特に,SEマネジャについては「ビジネスに強くなれ」「ぶらっと一人で顧客を訪問せよ」「SEを塩漬けにするな」「SEの体制図を出すな」「チームで仕事をやれ」などと言及してきた。

 それは,SEマネジャがこれらに真剣に取り組まないと,現在SEが抱えている様々な問題の解決も,IT企業が課題にしている「プロジェクト遂行力の強化・提案力の強化」も,なかなか思ったように図れないからである。事実,SEマネジャがビジネスや顧客に強く,部下をきちっと指導している組織は,どこの会社でもSEが一体感を持って生き生きと働いている。そしてプロジェクトや販売活動もうまくいっているものだ。

 しかし,SEマネジャの方々は,筆者の主唱に対しきっと様々な意見を持っていると思う。「馬場の考えは理想論だ。現場を知らない意見だ。そんなことをやろうとしても顧客が反対する。ビジネスがうまくいかなくなる」とか「話は分かる。だが,仕方がないんだ。会社や営業が悪いんだ」など否定的な意見が少なくないはずだ。もちろん「馬場さんの言うとおりだ。頑張っています」と言う人もいると思う。中には「馬場の意見は迷惑だ」と言う方もおられるかもしれない。

 筆者は,確かにSEマネジャがそう簡単に出来ないことばかり言っている。SEマネジャの方が文句を言いたい気持ちは分かる。いろいろと反論したい気持も分かる。多くのSEマネジャが日夜頑張っているのも知っている。だが,SEマネジャの方々は,次の2点を考えてほしい。問題提起も含め,今回それを説明したい。

20年,30年前から続いているSEの問題

 1点目は,20年,30年前から続いているSEの問題だ。どこの企業でも,SEマネジャやSEの多くは「自分たちは技術屋だ。ビジネスや顧客関係は営業やトップの仕事だ。俺たちには直接関係ない。俺たちは技術の仕事をすればいいんだ」と考えやすい。会社も「SEはプロジェクトをしっかりやれ」「IT技術に強くなれ」「資格を持て」など技術面のことは言っても,それ以上のことは具体的にはっきりとは言わない。

 これは20年,30年前も今も同じである。今はSIビジネス,サービス・ビジネスの時代だが,20年,30年前はハードウエア・ビジネスの時代だった。当時のSEは,ハードウエアのおまけ的存在として仕事をしていた。そして20年,30年前前から,長年多くのSEマネジャやSEは「俺たちは技術屋だ」と考えて,真面目に仕事をやってきた。では,その結果,20年,30年前前と比べて,今,SEは一体どうなったのだろうか?

 能力のない営業が,技術上問題のあるシステムを売って顧客やSEが苦労している。無理なシステム開発のために,SEが徹夜・徹夜・残業・残業で苦労している。営業や顧客の反対か何かの理由で,10年も15年も同じ顧客を担当しているSE。「SEを何人つけます」といった類のマンパワー扱い。SEの常駐。体制図の提示など,その他いろいろあるが,これらは20年,30年前とほとんど変わっていない。SEマネジャの方も,若いときを思い返してみれば,今と大して変わっていないと思うはずだ。

 その上,今はSEという職業が20年前,30年前には予想だにしなかった“3K”と称される職業になっている。学生のSE敬遠傾向も起こっている。そんな状況をSEマネジャに「なぜそうなんだろうか?」と質問すると,SEマネジャの中には「会社が悪い。営業が悪い」と言う人が少なくない。

 しかし,管理者であるSEマネジャが「会社が悪い,営業が悪い。だから仕方がない。SEは関係ない」などと他人事のように言ってよいのだろうか。顧客やビジネスを理由にして,部下を一つの顧客に5年も10年も塩漬けにしてSEが本当に成長すると思っているのだろうか?また,部下のキャリアをろくに考えもせず,40代半ばでSEが使い捨ての状態になっても「俺には責任がない」と言えるのだろうか。これでSEは日本の情報化を支えれるのだろうか。読者の方々の考えはどうだろうか。

 SEが長年「自分たちは技術屋だ。ビジネスや顧客関係は営業やトップの仕事だ。俺たちには直接関係ない。俺たちは技術の仕事だけすればいいんだ」と考えて,真面目に仕事をして来た結果が“この状況だ”と言っては,言い過ぎだろうか。もちろん,会社にも責任がある。だが,管理者であるSEマネジャには関係ないとは言えまい。

 SEは「自分たちは技術屋だ」という技術屋の殻に閉じこもっていてはダメだと,SEマネジャの方々に筆者は言いたい。そうでないと,10年後,20年後も現在と同じである。否,オフショア開発が進み,今よりもっと激しい価格競争にさらされ,大変になっているかもしれない。技術屋の殻に閉じこもった閉鎖的な世界からSEは脱皮しない限り,SEにとって将来は決して明るくない。SEが付加価値のあるSEになり,生き生きと働き,ビジネスにより貢献できるかどうかは,勇気のある心あるSEマネジャの腕にかかっていると筆者は思う。