スレッシュ・バスワーニ共同CEO
スレッシュ・バスワーニ共同CEO
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 「2~3年以内にITサービス業で世界の上位10社に入ることが中期目標だ」。

 インドのウィプロ・リミテッドで共同最高経営責任者を務めるスレッシュ・バスワーニ氏は、強みの「グローバル・デリバリ・モデル」に加えて、インフラ・サービスなどを伸ばすことで、米IBMや米アクセンチュアなどトップ・グループを猛追する考えを明らかにした。

 1945年に設立した同社がITサービス事業に乗り出したのは、28年前の1980年。以後、年率30%で成長を続け、2007年度には売上高42億6600万ドル、営業利益率約30%、従業員9万2000人の規模に達した。今では同社の売り上げの9割を占める事業に育っている。

 ウィプロのITサービス事業の成長基盤は「グローバル・デリバリ・モデル」である。「世界中のIT資源を有効活用し、サービスをシームレスに提供する仕組みだ。当社はこのモデルのパイオニアだ。多くのサービス企業が導入したことが、このモデルの重要性を証明している」(バスワーニ氏)。

 だが、欧米のユーザー企業などがインドIT企業を使う理由は、コストメリットだという見方もある。「確かに我々は優位なコスト体系を持っている。しかし、ユーザーはコストだけでは納得しない。当社を選定した要素はコストだけでなく、よりよいサービスを受けられることにもある。他のサービス企業に比べて当社のサービスは品質が高いということを、ユーザーに実感してもらっている」(同)。

 だがインド企業を含めた競合他社がグローバル・デリバリ・モデルに力を注ぎ始めている今、差別化はだんだん難しくなっているはずだ。しかしバスワーニ氏は、「当社には強力な包括的サービス群がある。BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)やインフラ・サービス、アプリケーション開発などだ。パッケージ製品の開発ノウハウも、業種特有の業務プロセスに関する知識も積み重ねてきた。これらのサービス群を最適に組み合わせることで、顧客企業のビジネスの付加価値を高めるお手伝いをする。誰もができることではない」と強気だ。

新興国市場で存在感高める

 加えて、新興国市場の開拓にいち早く乗り出したことが業績拡大に貢献しているという。「今後、世界のITサービス市場の成長の大部分はインド、中国、中東、ラテンアメリカといった新興国で起こる。欧米など成熟した市場にもまだ成長の余地はあるが、ITサービス市場の成長を牽引するのは新興国だ。当社は新興国への投資を増やし、プレゼンスを高めてきた」(バスワーニ氏)。

 同時に進めているのが人員のグローバル化である。具体的には、各地に密着した技術者を増やしている。例えばフランス法人の技術者はほとんどフランス人である。ちなみにインド以外の国で同社が抱える陣容は約1万5000人になる。

 もちろん日本市場も伸ばす。日本法人のアリイ・ヒロシ社長は「5年以内に、売り上げを今の3倍超の約500億円に引き上げる」と意気込む。そのため、日本担当の技術者を現在の2500人(オンサイトに250人、ニアショアに250人、オフショアに2000人)から約5000人まで増員する計画。同社はインドに日本企業向けのオフショア開発センターを開設しているが、その利用企業も現在の10件から20件に拡大する。

 量的な拡大だけでなく、「人に依存したデリバリ・モデルからフレームワークなどツールを活用したデリバリ・モデルへのシフト」(バスワーニ氏)も進める。継続的な成長を遂げるために不可欠と考えるからだ。人員増以上のペースで収益増を図る上で、重要な武器の1つがインフラ・サービスだという。

 こうした積極的な取り組みにより、2年から3年以内にITサービスで世界の上位10社に食い込む目論見だ。実は、現時点でも人員数、時価総額、収益性では世界のトップ10に入っているのだが、さらに売り上げなどでも10位以内に入ることを目指している。