前回は,ベンダーがシステム開発の義務を負担する範囲を,裁判所がどのように認定しているかを中心に解説しました。今回からは,開発対象システムの範囲が契約で特定されていることを前提に,ベンダーとユーザーとの間で発生する問題について検討します。

 システム開発の委託契約については,その法的性格は請負契約である,とする裁判例が多数見受けられます。請負契約は民法632条に「当事者の一方がある仕事を完成することを約し,相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことによって,その効力を生ずる」と規定されています。つまり,請負人(ベンダー)が「仕事を完成」させる義務を負担する契約となります。

 請負契約では,請負人が仕事を完成させたと主張できるかどうかで,その後の法的な処理方法が異なってきます。そこで,まず,仕事を完成させることの法的意味や位置付けを確認した上で,仕事が完成したかどうかを,裁判所がどのような基準で判断しているのかを検討してみようと思います。

仕事が完成したと言えるかどうかで法的な処理は全く異なる

 システム開発の委託契約を請負契約であると考えた場合,ベンダーの仕事が完成したと言えるかどうかで,法的な処理が全く異なってきます。例えば,民法633条は以下のように規定しており,仕事が完成しなければ,請負代金を請求することができません(ただし,特約で前払いにすることはできます)。

民法633条
報酬は,仕事の目的物の引き渡しと同時に,支払わなければならない。

 また,仕事が完成するまで,ユーザーは,民法541条や民法543条を利用して,ベンダーの債務不履行を根拠に契約を解除することができる場合があるほか,ユーザーはベンダーの損害を賠償して契約を解除することができます(民法641条)。現実の裁判では,ユーザーによる債務不履行に基づく解除の意思表示が無効である場合に,ベンダーがユーザーによる解除の意思表示を民法641条に基づく解除であると援用する場合があります。

 これに対し,仕事が完成すると,原則として,仕事の目的物に瑕疵(かし)があって,そのために契約の目的を達成できない場合でなければ請負契約を解除することができません(民法635条)。

民法641条
請負人が仕事を完成しない間は,注文者はいつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
民法635条
仕事の目的物に瑕疵があり,そのために契約をした目的を達することが,できないときは,注文者は契約の解除をすることができる。

 従って,現実の裁判におけるベンダーとユーザーの攻防も,仕事が完成しているかどうかで変わってきます。例えば,請負契約を締結し,前払いでベンダーがユーザーから請負代金を受領していたとします。この場合,ユーザーがベンダーから納品されたシステムに満足できず,請負契約を解除して,損害賠償請求したという事案では,おおむね以下のフローチャートに示す攻防が繰り広げられることになります()。

図●ベンダー・ユーザ間における,ベンダーの債務不履行をめぐる攻防

 このように,ベンダーが,契約で特定された仕事を完成しているかどうかで,その後の処理が異なります。そこで,まず,仕事が完成したかどうかを,どのように判断するのかという点について検討してみることにします。