7月最後の週末,情報化研究会のコア・メンバーで岡山を旅行した。恒例の夏の研究会旅行で,今年が11回目になる。東京から5人,大阪,京都,広島などから6人が参加した。今回のメインイベントは備前焼の体験だ。

 土曜日の正午にJR岡山駅東口の桃太郎像前で待ち合わせた。好天で,気温は35度を超える猛暑だった。

 昼食の後,日本三名園の一つ後楽園や備前長船(おさふね)刀剣博物館などを見学した。備前は焼き物だけでなく古くから名刀の産地としても知られ,刀剣博物館には鎌倉時代や室町時代の名品がたくさん展示されていた。案内役の若い学芸員がとても熱心に解説してくれたので,こちらも引き込まれて興味深く見学できた。その人によると,名刀かどうかを見極める第一のポイントは,じっとその刀を見つめて「気品」が感じられるかどうかだという。

 その日は江戸時代に朝鮮通信使が寄港した古い港町,牛窓にある前島という島に泊まった。陽光に照らされた瀬戸内海はとろんとした青色で,波はほとんどない。丸みをおびたおとなしい形の小島が点々と,のどかに並んでいた。宿はきびきびした奥さんのいる民宿で,タイやヒラメの刺身,メバルの煮付けなど瀬戸内の新鮮な魚をたくさん食べさせてもらった。

 2日目の午前中,備前焼を教わった。先生は窯元の若い二代目だ。プロは電動ロクロを使って均整のとれた美しい器を作るのだが,我々素人に電動ロクロは使いこなせない。手ひねりという原始的な方法で思い思いに茶碗やビアジョッキを作った。

 手ひねりには粘土をひも状にして使う「ひも作り」,と固まりのまま使う「玉作り」がある。我々が習ったのは玉作りだ。作るものに応じて適当に分けた粘土をたまご型にし,手回しロクロの上にトン,と据える。そして,たまごの上部を親指の腹でグイグイ押して穴を作る。この穴を丸く広げつつ,深くしていって器の内側を作る。同時に器のヘリを円く,均一な厚さに整えていく。ほどよく形が出来上がると,器の底が上になるようにひっくり返す。

写真1●筆者が作った夫婦茶碗。11月に登り窯で焼かれ,クリスマス頃に手元に届く予定
写真1●筆者が作った夫婦茶碗。11月に登り窯で焼かれ,クリスマス頃に手元に届く予定
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 高台という器の底の輪状の足を作るため,手回しロクロを回転させながらヘラで底の周りの粘土を削り取る。残った円形の高い部分の内側を縁だけ残して円く削ると高台が出来る。また,元通りにひっくり返して全体を指先で整えると完成だ(写真1)。

 こう書くと簡単なようだが,器を真円にすることは難しいし,ヘリを均一な厚さにするのも困難だ。粘土は一度伸ばし過ぎたり,広げ過ぎると元には戻せないのが難しいところだ。

 手ひねりは誰でもすぐできる簡単な技術だが,ロクロで作った真円で均整のとれた作品とは違う,味のある器が出来る。簡単な技術でも使い方しだいで,かなり凝った作品が出来るのだ。企業ネットワークの設計においても同じことが言える。今回は簡単な技術の使いこなしの大切さについて述べたい。

ルーティング技術のいろいろ

 企業ネットワークに限らず,IPネットワークの設計で重要なのはネットワークの動きを決めるルーティング設計だ。ルーティングとは送信元から送信先へIPパケットを転送する機能であり,ルーターからルーターへとパケットをリレーすることで実現される。ルーターは受信したパケットを次にどのルーターへ転送すべきか決定するため,「あて先ネットワーク・アドレス別の(次に送信すべき)ルーターのアドレス」を書いたルーティング・テーブルを持っている。

 ルーティング設計とは,信頼性向上のための冗長化,回線を効率的に使うための負荷分散などをどうするか決めた上で,ルーター同士が経路情報を交換してルーティング・テーブルを生成するための方式であるルーティング・プロトコルとして何を選択し,どんな範囲で,どんな使い方をするか設計するものだ。

 筆者はユーザーが特定のベンダーやキャリアに牛耳られず,主体性を持って製品や通信サービスを選択できるよう,オープンな技術で設計するという絶対的ポリシーを持っている。したがってルーティング・プロトコルとしてはOSPF(open shortest path first),RIP(routing information protocol),スタティックなどの標準プロトコルを使う。

 OSPFは大規模ネットワークにも適用できる高機能なルーティング・プロトコルで,経路の冗長化や負荷分散が容易にでき,障害発生時の迂回が短時間でできるといった特徴がある。しかし,使いこなすにはRIPに比べて複雑なOSPFの仕組みを理解し,習熟せねばならない。また,ルーターはリンクステート・データベースと呼ばれる最短経路計算のためのデータベースの作成や計算が必要なため,高い処理能力を持つ高価なものが求められる。

 RIPはOSPFより仕組みが単純で使いやすくルーターの処理負荷が少ない半面,大規模ネットワークには不向きで,障害時の経路切り替えはOSPFより時間がかかる。

 OSPFやRIPはルーター同士が経路情報を交換し,ルーティングに必要なルーティング・テーブルを自動的に生成する「ダイナミック・ルーティング」だ。LANの追加や回線の切断といったネットワークの変化があると,動的にルーティング・テーブルが変更され転送経路が変わる。これに対して,スタティックは手動でルーティング・テーブルに経路情報を設定する。ネットワークに変化があっても自動的には反映されない。スタティックは使い方が単純で,ルーティング・テーブルを作成する処理がないのでルーターの処理負荷も軽い。しかし,冗長化や負荷分散が難しく,設定に手間がかかるのが難点だ。

 焼き物の技法で言えば,OSPFは電動ロクロに相当する高度な技術,RIPやスタティックは手ひねり的な簡単な技術といえる。

 ある程度の規模の企業ネットワークになると単一のルーティング・プロトコルで設計することは少なく,複数の方式を組み合わせて効率的で信頼性の高いルーティングができるように設計することが多い。そこで,簡単な技術をいかに上手に使うかが問われる。