野村総合研究所(NRI)が2008年4月にスタートさせた長期経営計画「Vision2015」。2015年度までの8年間をかけ、ユーザー企業1社ごとの“個社システム”構築から、業界・市場横断的に使える“ビジネス・プラットフォーム”の提供へと、同社の根幹を支える事業をシフトさせていくという。

 多くの業界関係者はNRIに対し、「高成長を達成した最有力のITサービス会社」「将来も安泰」といったイメージを持っているだろう。確かにこの数年間、年率15~20%で売り上げを伸ばし続け、中期経営計画「Vision2008」の数値目標「2008年度に売上高3200億円、営業利益率11~12%」を、2年前倒しで達成した。だが、この業績を支えたのは単発のシステム構築需要であり、将来伸び悩む可能性が大きい。他社と差別化できるサービス商品やソリューションなしには、NRIといえども成長し続けることはできない。

 「変わること」。NRIの藤沼彰久会長兼社長は、8カ年という長期経営計画を作成した最大の目的をこう明かす。NRIは、言ってみれば「野村證券」プラス「金融」という土俵で成長してきた会社だ。だが藤沼氏は「非直接金融および金融以外の領域」、つまり新しい市場分野や顧客の獲得に力を注ぐ考えだ。「Vision2015」中のステートメント(宣言文)には「NRInnovation!」というタイトルが付けられているものがある。これも、社員に「成長し続けるためには変革が必要である」ということを強く訴えたいがためである。

成長の根源は顧客を元気にする提案

 もちろん数値目標はある。従来から手掛けるアウトソーシングやASPなどのストック型ビジネスによる収益は確保し、売り上げも利益も年率7%のペースで増やすのだという。その一方で、社員数の増加は年率5%程度に抑える。つまり生産性を高めていく。順調に行けば、2015年度には売上高約6000億円、営業利益約900億円になるはずである。

 ただしこれはあくまで長期計画の成果の一つの側面ということのようだ。藤沼氏は「NRIは単に金を稼ぐだけの会社ではない。顧客に褒められる、つまり『NRIと付き合うことで元気になれて良かった』と思われるようなことをしていけば、数字は自然についてくる」と語っているからだ。

 藤沼氏が長期計画の目標達成に欠かせない要素としてよく口にするのが、「NRIらしい自主型事業イノベーションの創出」という言葉である。その実現策は3つある。1つは、新しい「ビジネス・プラットフォーム・サービス」の提供だ。

 業界に共通した機能やサービスを“個社システム”から切り出し、共通システムに仕立てあげる。現行の例で言えば、証券システムの「THE STAR」や投信口座管理システムの「BESTWAY」、自動車損害賠償責任共同システムの「e-JIBAI」のような共同利用型システムがこれにあたる。こうしたシステムを他社に先んじて提供することは、受注型から提案型の自主事業モデルに転換する上でも有効だ。

 中でも最も期待するのが投信口座管理システムの「BESTWAY」。投信口座管理システム上で多様な次世代サービスを展開することが考えられるからだ。「証券業界におけるシェアを今の4割から8割に高められれば、いろんなことができる。グーグルが世界中のインフォメーションを提供する仕組みを考えたように、口座を核とする事業ドメインを確立したい」(藤沼氏)。

 証券業界向けの経験を生かし、ユーザー企業の意見を聞き、制度改革や規制緩和などを提言したり、国内外での関連動向を調査したりといった活動を展開しながら、必要なサービスやソリューションを一歩先んじて提案していく考えだ。

 ここでは詳しく触れないが、「NRIらしい自主型事業イノベーション」実現策の2つめは「金融フロンティア」と呼ばれる。金融機関向けに革新的なIT活用ソリューションを用意するという。3つ目は「サービスリンク」。企業や業界を横断する新たなサービスであり、いわばEDI(電子データ交換)のようにサービスとサービスをつなげるものになるという。