顧客の時代がやってきた!「売れる仕組み」に革命が起きる
著者:石塚しのぶ
発行:アイ・エム・プレス
販売:インプレスコミュニケーションズ
価格:1995円(税込)
ISBN:978-4844370406

 この本を読んだ私の率直な感想は「ついにこんな時代がやってきてしまったか」なのでありました。

 かつて私は,ファミコンのゲームソフトメーカーで子供たちと,証券会社でシニアの優良顧客と深く接する好機がありました。どちらの顧客層も当時は,情報に疎い弱者だと見なされていました。広告やセールス話法に踊らされやすいと見なされていたのです。

 しかし,実際には違いました。本音で話すと,専門誌の情報やクチコミを駆使して,いかに騙されずに安く買うか高く売るかに長けていました。実のところ「売る法人よりも買う個人の方が賢く行動している」事例の方が多かったのです。

 ですから,インターネットの可能性に触れた十年ほど前に怖くなりました。ネット前夜でさえ,お客様が賢くなっているのに,ネットが普及したらどうなるでしょう。いずれ誰もが居ながらにして簡単に情報を得ることができるようになり「力関係の大逆転が起きる」に違いないと気づいたのです。

天国と地獄~新しい仕組みを作れるか

 日本でも既にその兆候は明らかです。ITpro読者なら,ご自身の本や電化製品の買い方,宿の予約の仕方などを考えれば分かるでしょう。検索~公式サイト~比較サイト~ネットコミサイトを使って,一番気に入った商品を一番安く買っているはずです。

 この本を読めば,米国ではさらに進化が進んでいることがわかります。今日の強者が明日の弱者になり,その逆もまた真なりです。そんな変革期にあって,先んじてITを「顧客主導の売れる仕組み」に適用した企業,病院,自治体などが躍進したのです。そんな参考事例が数多く紹介されています。

 弊社(久米繊維工業)でも,このたびアマゾン出店を活用した流通改革に着手しました。しかしその可能性を吟味するうちに,これまでの仕組みを一変するかもしれない連携効果に気づいて,興奮さえしているのです。

 この本を読めば,もはやITのスペシャリストであっても「売れる仕組み」づくりに参画しなければ存在意義がないことをご理解いただけるでしょう。そうでなければ,システム開発の優先順位さえ決められないからです。

 もちろん,いきなりマーケティングの本をかじっても良いのですが,おそらく,IT活用からのアプローチである本書から読んだ方が理解しやすいはずです。

 著者の石塚しのぶさんは,米国・ロサンゼルスにあるリサーチ&コンサルティング会社,ダイナ・サーチの代表です。以前,ある勉強会でご一緒して感銘を受けて以来,石塚さんのブログを通じて勉強させていただいます。

 しかし,この本の出版に合わせて,石塚さんのブログが「書籍連動サイト」に変貌したことに驚きました。

 そこには,この本を書いた動機はもちろん,執筆メモ,書評,インタビューまで網羅されていて驚きました。いうなれば,私はこの書評で内容を詳しく書く必要さえないのです。 情報を商品とするコンサルタントが,新著の内容さえネットで無料公開していることこそ,新たな「顧客主導サービス」のヒントだと言えましょう。

 今後,CIO(情報最高責任者)は,自社の情報をどこまで公開すべきかの識見を問われることになると思います。単に,個人情報保護や機密保持の観点ばかりでなく,どうすればお客様の満足度とロイヤリティーを高めて長く深い関係を築けるかが問われます。情報発信と公開の新しいルールを考えるためにも,石塚さんのブログと本の事例は役立つでしょう。

Watcherが薦めるこの一冊