Windows Server 2008 テクノロジ入門 (マイクロソフト公式解説書)
著者:Microsoft Windows Server Team, Mitch Tulloch
出版社:日経BPソフトプレス
価格:4935円(税込)
ISBN:978-4891005672

 実は,ここ数年,技術書をほとんど読んでいません。マイクロソフトが提供する情報と,マイクロソフト社員のblog,そしてメーリング・リストなどで必要な知識のほとんどが得られるためです。あらゆる情報がインターネットにあふれている現在では,ある程度の基礎知識が身についていれば,書籍を読む必要性はほとんどありません。インターネット上で提供される情報は断片的なものが多く,初学者は体系的に書かれた書籍を読むべきですが,多くの人にとって書籍での学習は必須ではなくなってきています。

 そうした状況の中,「Windows Serve 2008 テクノロジ入門」は,初学者から専門家まで,万人にお勧めできる数少ない書籍です。本文はWindows Server 2008ベータ3をベースにしているため,実際の製品とは多少異なる部分もあります。マイクロソフトの製品開発サイクルは通常,一般公開される最初のバージョンである「ベータ3」が最も多機能で,そこから発売時期に間に合うようにいくつかの機能が削除されます。今回も,ベータ3から製品が出荷されるまでの過程で,いくつかの機能が削除されています。

 例えば,サーバー仮想化の本命「Hyper-V」は別途Windows Updateで提供されていますし,リアルタイムの高可用性機能「ライブマイグレーション」は実装されず,より単純な「クイックマイグレーション」のみが利用できます。その他にも細かな点で違いはあるはずです。そのため,本書の内容が実際のWindows Server 2008で使えるかどうかは適宜検証を行う必要があります。

 それでも本書は,今後Windows Server 2008に関わる技術者(つまり,Windowsに関わっているすべての技術者)にとっては,ぜひ読んで欲しい1冊です。随所に登場する妙なジョークも,著者が読者を思う気持ちを考えると微笑ましく感じます。私の考えでは,適度なジョークは脳に刺激を与え,学習効果が上がります。

 ベータ版の時点で出版される書籍の多くは,マーケティング・メッセージが満載されています。Windows Server 2008だと「管理機能の向上」「セキュリティの強化」「柔軟性の向上」などという話が必ず入ります。「Windows史上最も安全なオペレーティング・システム」という言い方もされます。しかし,本書の著者は「マーケティング・メッセージなど,技術オタクにとっては(必要だけど)どうでもいい話だ」と言い切ります。冒頭には,「必要悪」として数ページだけマーケティングの話が入っていますが,その他は技術要素と利用ケースに絞った話題が続きます。

 今となっては,どの項目もWebから得られる知識ばかりかもしれません。しかし本書には,開発チームからのメッセージが数多く掲載され,そこには「なぜ」その技術が実装されたという理由があります。こうした思いは,開発チームのブログからも得られますが,まとめて読む機会はなかなかありません。ぜひ読んでいただき,Windows Server 2008の背景というものを知っていただきたいと思います。

 ところで「はじめに」の最後が傑作です。

 「私がコンピュータオタクのせいなのか,冗談を言っても私の妻はたいてい分かってくれない」

 まるで,我が家のことのようです。ちなみに,著者の奥さんはマーケティング・チームにいるそうです。「マーケティング・メッセージなど不要だ」と言い切るのは,奥さんに普段から冗談を無視されているせいかもしれません。

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