既に各種メディアで報道されているように,マイクロソフトの日本語表記ルールが変更されました。それにしても,ここまで大きな記事になるとは驚きです。それほど重大なこととも思えないのですが,私の感覚が鈍いのでしょうか。

 念のため,ご存じのない方のために書いておくと,従来は「コンピュータ」や「スキャナ」など,語尾の長音を省いていたのを,「コンピューター」「スキャナー」のように表記するというものです。

 語尾の長音を省くというルールは,JIS規格のZ8301に準じているためとされています。Z8301では,3音以上の語に対して,語尾の長音を省略するのが原則です。学術論文などはほとんどこの規格に従っているはずです。

 ただし,マイクロソフトはJISに厳密に準拠していたわけではありません。マイクロソフトのプレスリリースでも「従来はJISに準拠していた」とは書いていません。

 マイクロソフトは「2音の用語は長音符号を付け,3音以上の用語の場合は(長音符号を)省くことを『原則』とする」としています。この原則自体はJISと同じです。しかし,JISが「長音符号を書き表す音」を1音と認めているのに対して,マイクロソフトでは認めていません。そのため「ユーザー(ユーザ)」「サーバー(サーバ)」と表記が分かれます(括弧内がJIS準拠)。JIS規格には例として「テーパ(taper)」が掲載されていますので,規格に対する解釈の違いではないでしょう。

 初めてマイクロソフト製品に触れたとき,このあたりにずいぶんと違和感を覚えたことを記憶しています。ただ,慣れれば「ユーザ」より「ユーザー」の方が自然に思えます。「コンピューター」にはまだ慣れませんが,新聞などで採用されている表記と同じですから,すぐに慣れるでしょう。

 今回採用された基準は,国語審議会の報告を基に作成された内閣告示に原則準拠しているということです。「原則」というのにひっかかる点もありますが,コンピューターが一般化した現在,JISという工業規格に準じるよりも望ましいと思います。

 ただ,IT業界の専門家には反対意見を持つ人も多いようです。また,そもそも国語審議会の報告という点に不信感を持っている人もいるかもしれません(注)。それでも,マイクロソフトというIT業界の大企業が,一般紙誌と同じ規則を採用したということで,今後は確実に広まっていくはずです。私のところでも社内標準を見直さないといけないと思っています。

 (注)国語審議会の報告に関して有名なものに,「日本人名を英文表記するときは『姓・名』の順に記述する」という報告があります。その根拠として,中国や韓国の例を挙げているようです。確かに,中国人や韓国人の名刺を見ると,英語名は,姓・名の順に,漢字1文字あたり1語として記述されています(そのためどこまでが姓でどこからが名前かよく分かりません)。

 いきなり姓・名の順に記述すると混乱するということで,姓を大文字にして,コンマで区切る(たとえばYOKOYAMA, Tetsuya)という表記が推奨されているようです。この書き方は,英語圏でもよく見る表記です。おそらく世界中で通じるでしょう。

 ところが,こうした報告はほぼ完全に無視されています。国語審議会はそれほど重要な団体だとは思われていないのでしょうか。